その7


国上:そのヒントの導き方は、何しろ、先ほど言った和田さんらが聞ききとってくれた母親の証言とからの推察に尽きます。まず、彼は呪いをパンデミック状態にして、全滅までは望んでいないという前提があります。

ー奈緒子と和田はここからメモを取り始めるー

国上:…しかし、彼の念じた百夜殺しという極めて拡散性が高い手法は、人間が全滅とまでは行かなくても、今の社会基盤が失われる規模でのパンデミックまではいっちゃう可能性もあると思うんですね。この辺を鬼島は。事前にどう捉えていたかということですか…。

鷹山:和田さん、奈緒子さん…。国上さんと私は、百夜殺しのサイクルに、モロ乗ったら、現状の連鎖自殺の件数はこんなもんじゃないと思ってるんです。私の試算では、半年で日本全国トータル1万人弱でした。でも、今のところは、おそらく100人前後から多くても200人程度で収まっていると見ています。つまり、計算高い鬼島なら、その辺を読み込んで、拡散率を抑えるテイストを注入したのではないかと…。

和田:つまり、あえて呪いの拡散率を弱める機能を付したと…。

鷹山:はい。そもそも、1年で2万人単位の人間が自殺していったら、社会パニックが起こります。それは、彼の望む展開ではない。なぜなら、この文面での”人間ドラマ”が生まれるという、土台を損ねる事態だと思えるからです。彼は文字通りかかまってもらいたい訳で、呪いの連鎖を鈍化させる”隙”は盛り込んでいると…。私たち二人はそういう仮説を立てていましたが、今日で確信できました。

奈緒子:あのう、具体的にはどんな…

鷹山:まずもっては、二次以降の呪い度が徐々に弱くなってる点です。実際に、三浦さんからお預かりしてる手紙の血のりの開封作用は丸島さんの時よりかなり鈍いんです。

和田:そうですか!それは朗報だ…。

国上:他には、鷹山さんのところに届いた、転居先不明で戻った手紙ですね。あの方法ですべての念じ手にやられたら、百夜殺しの呪いは早晩根絶します。鬼島は、それもしっかり見切って呪いの仕組みを放ったと思えるんですよ。