再び届いた手紙



夕方、丸島が家に戻ると、奈緒子はすでにリカと庭にいた。

「あら…、おじいちゃん帰ってきたわよ、リカ…!」

おばあちゃんの声にリカはすぐに反応した。

「あー、おじいちゃん!」

「おー、リカ…。よく来たな…、はは」

「今、おばあちゃんとお庭にお水をかけていたの」

「そうか。ご苦労様…」

カバンをショルダーにかけた丸島は、孫娘の前にしゃがんで右手で頭を撫でていた。

「お父さん、奈緒子の方もちょうどさっき着いたとこよ」

そんな二人を傍らでほほえましそうな笑顔で見つめていたアカリは、夫にそう声をかけた後、隣に立っている娘の奈緒子に会釈した。
奈緒子は小さく頷くと、リカのそばまで寄っていって、父に挨拶した。
笑顔で…。

「お父さん、お帰り。金曜まで泊めてもらうわね」

「ああ…。奈緒子、元気そうだな」

二人はリカを挟んで、互いに照れくさそうな笑みを交わし合っていた。
真ん中でホースをつかんでるリカは、首を上に向けてながら、そんな母と祖父の顔を相互にニコニコしながら何度も往復させている。

「クスッ…」

同じくホースを掴んで麦藁帽をかぶっていたアカリは、思わず吹き出すようなこぼれ笑いを漏らし、水巻きを再開した。

まもなくすると…、明らかに郵便配達とわかるバイクの音が聞こえてきた…。


***


すぐにそれを察知したアカリは、ホースの水を止めると小走りして門の外へ出た。

「…ああ、ご苦労様です」

「ええと…、今日は4通ですね。直接お渡しします。…お孫さんですか?」

「そうなんですよ。娘と一緒に今日から泊りがけで…」

「そうですか。急ににぎやかになって、けっこうですね。はは…」

アカリは何しろ人当たりがよく、如才がなかった。
どうしても周囲からはギシギシした態度で接してしまう丸島は、そんな妻にはこれまで、大いに助けてもらってきたことだろう。

アカリは受け取った4通の郵便物を確認して、3人の前に戻ると、うち2通を丸島に渡した。

「はい、これ、あなた宛てだから。なんか、往復はがきの方はまた同窓会みたいね。私のは両方ともDMだけど(苦笑)」

これには奈緒子もボソッと笑っていた。


***


「ああ、M高校の33期生だな。うん…、割とよく覚えてる。ここん時の生徒たちは…」

「お父さんね、最近は同窓会で昔の教え子に再会するのが一番の楽しみなんですって。あなたも長く先生を続けてれば、いずれそうなるわね」

アカリのなんとも掴みのある言葉に、娘の奈緒子はしきりに苦笑していた。

「うん…?もう一通の封書は差出人が書いてないな…」

「中開ければわかるんじゃない?」

既に孫娘と庭の水巻きに精を出ていた妻のアカリは、そうさらっと返した。
だが…。

”この字…!もしや…”

その白い差出人非明記の定形封筒を手にし、丸島の顔色は一般した。

「…ああ、それじゃあ、オレは書類の整理とかがあるんで部屋にいるよ。…リカ、それじゃあ、またあとでな」

「はーい!おじいちゃん、お仕事頑張ってねー!」

何ともかわいい孫のエールを受けて、丸島も笑顔で手を振ったが、すでに心の中はどっと曇っていた。


***


部屋に入ると、丸島は慌てた手つきでサイドボードの引出しから”例の”手紙の束をつかみ取った。
そしてそのまま机に着き、たった今配達された白封筒と見比べの作業に入った。

”間違いないぞ!今届いた封筒に書かれたあて名は、鬼島則人の筆跡だ。つまり、この差出人が記されていない手紙は彼から送られてきたもの…”

丸島の背筋は早くもブルブルと震えていた…。
それは、この手紙の宛名の筆跡が彼のものであろうということのみではなかったからだ。

”何なんだ、この封閉じの赤いシミは…。まるで血が滲んでるみたいだ…”

丸島は即、スマホを手にした。

”このタイミングで鬼島からの手紙がまた届いたんだ。土曜の居酒屋でのことと兼ね合わせれば、無視できない。やはり和田に相談しよう…”

彼はその場で和田のケータイに発信した…。