その2



”三浦美咲は相手から悪感情を持たれていた。一方、私の父はこの呪いを断ちきるために、百夜殺しを何としても踏破してもらいたいという一念で、水野さんに手紙を送った。でも当然、憎しみとかはなくても、呪いを与えなくてはという思いはこもっていただろう”

奈緒子の頭の中は水野の言葉ひとつひとつを、整然と分析に導いていた。

”そうであれば、手紙を送る人の感情でシミがつくつかないは決まる。つまり…、その結果で、手紙を開けない限り呪いは封印されたままか、無理やり呼び寄せ夢で読まされるかのコースに分かれるってことなのか…”


***


「…ここで、百夜殺しを告げられた夢のことをお伺いしたいのですが」

「ええ…。ただ、この前電話で申したとおり、あの当時は仕事が一番苦しかったの時期で、それこそどんな死に方しようかって年中考えていた時期でしたから…。毎晩変な夢いっぱい見てて、ごっちゃになってるかもしれない。その辺、ご承知下さい」

「はい。思いだせる限り構いません。何しろ、これから呼び寄せ夢に見舞われる女子高生を救ってやりたいんで、何でもいいので…。あらかじめ許可をいただいた、この録音データも研究機関に検分してもらいます。水野さん…、よろしく頼みます」

「まあ、あなたから連絡いただいて、改めてよく思いだしてみたんですが、やはり柳の木でしたね。”自分”は複数登場してて、感覚的にはその鬱蒼とした木の陰に佇んでいたか、若しくは柳の木と一体化したやせ形の男と、会話だか何だかをしてる感じを”見てる自分”がいる…。たぶん、そん時に百夜殺しとかってのを告げられたと思うな」

「その男が父ではなかったのは、間違いないですか?」

「ああ、100%彼ってことはないですね。そもそも、あの手紙には差出人が書かれてなかったんで、”この件”が丸島と関係あるなんて、そちらから聞かされるまで全くね…(笑)」


”こう言われればそれまでだが、やはり、あの夢に父が出てこなかったことが確認できたことは大きいわ。ここでも1次念じ者が直接百夜殺しのルールを伝えたってことになるし…”