その1


戸田アキホは、とうとう…、つい”眠り”についてしまった。

彼女が”意識”を認識すると、そこは昼とも夜とも判別し兼ねる光沢を醸すその空間…。
そこに、彼女は降りたっていた。

体は動かない。
言葉も出ない。
どうやら、瞬きも止まっているようだった。
そして、ここでは時間が流れているのかすら怪しい限りの静寂…。

”どこなのよ!ここ…!”

音として作用しない彼女の叫びは、声優のような美声をこの空間が拒否しているからか…。

”柳の木…??”

彼女はその気配を”認知”した。


***


とある瞬間に、彼女の視界には木の最上部がにゅっとくびれた、無数の枝をまるで女性の長髪のようにそよがせた柳の大木が入った。
それはすっと、スポットライトを浴び、全容を現したという感覚に近かった。

”きゃあー!これ…、生きてるう…!!”

風というものが存在し得るのかと疑いたくもなるこの怪空間で、目の前のくびれ柳は腰をくねらせ、髪をゆっくり振り乱る人間の女のようだ。

”いやー、来ないでー!!”

依然、自分自身だけにしか到達しない”無声絶叫”を空しく繰り返しながら、直立不動のまま、彼女は恐怖の極みに支配されていた…。


***


柳はくびれた上部を曲げて、アキホの顔の正面まで寄った。
それは首を垂らして、はるかに背の低い彼女の顔を覗き込む人間の動作とどこが違うのか…。

そう言うことであった。

”ギャアー!”

失神することも許されないアキホに、柳の枝が一斉に彼女の体へと巻きついた。
それは枝というよりも生きたムチと言えた。

”熱いーー、誰でもいいから助けてー!!”

またまた彼女は、誰にもどこに届くことのない、”助けを呼ぶ大声”を全力で上げていた…。