新たな予兆



「そうか…。その大口の取引が成立して、だいぶ元に戻ったのか‥」

「まだまだ苦しいが、一時はそれこそ毎日、首括る自分のビジュアルが頭にこびりついていたからな…。その都度、古田には”都合”つけてもらって感謝してるよ(苦笑)」

「いや‥。でも正直、それありかなって雰囲気もあったしな。ホント、一息つけたんならよかったよ。はは…」

「ああ。実はさ、この大口の件…、いったん白紙に帰ってさ。一番しんどい時期、変な夢を見るようになってよう。要は殺されるんだ、毎晩…。それこそ、刃物から絞首刑まであらゆるシュチエーションで、化け物に喰い殺されるとかもな」

「…」

「オレもどん底ん時は、どんな死に方が一番楽かななんて考えてたもんだから、かえって毎日いろんな殺され方されて、腹が座ったって言うか、免疫ついちゃったもたいでな。はは…、それ、最初から数えてたんだが、ちょうど100晩続いたよ。だがそれ以降はさあ、もう全くそんな夢見なくなった」

「なんか、不思議な現象だな」

「まあ、確かに恐ろしい夢には違いなかったが、当時のオレには冗談抜きに現実の方がよっぽど怖かったから(苦笑)。だからさ、丸島が自殺ってのも何かな…。定年間近かで、悠々自適の終活にルンルン気分だった奴がさ…。やっぱ人間みな、人の見えないとこでは悩みや苦しみを抱えてるんだなあって痛感したよ。”あの3人の時”、丸島にヘンな嫌み言って、あれ逆恨みだったわ。後悔してるよ」

「水野…」


***


そんな二人の会話が続く中、店の中央にあるTV画面からは、あるニュース速報が映し出されていた。
そしてその後のニュースでも、この事件を真っ先に報道していた。

ただし店内は満席の話し声でざわめき、テレビの音声は水野と古田の耳に届く由もなかった…。


***


≪…本日午後5時半ごろ、人気女性タレントの○○×美さんが、自宅マンションの屋上から飛びおり、全身を強く打って即死しました。○○さんの部屋からは遺書のようなものが見つかっており、警察では自殺と見て、詳しく調べています≫

≪…○○さんは、急増する若者の自殺者対策の一環として、政府が主導した自殺防止キャンぺーンのイメージキャラクターを務めていて、テレビのCM等で自殺根絶の普及活動に尽力
していましたが…≫

≪…政府では、このところ社会問題となっている、いわゆる女子中高生を中心とした、ごく身近かな範囲での人間が短期間のうちに次々と自ら命を断つ連鎖自殺の撲滅を掲げていただけに、今回の○○さんの自殺には大きな衝撃を受けており…≫




第1部
ー完ー