二晩目の生き地獄



”なんと…!国上さんの施術は、極めて効果的な作用をもたらしてるようだと…”

「そうなんだ!顕微鏡の分析じゃあ、明らかに”一番血液”への排除作用に出てるらしいんだ。凄いよなー。はは…、だからよう、今夜はとりあえず休んでくれって」

「そうか。和田も遅くまですまなかったな。国上さんと鷹山さんには、心から感謝言ていたと、くれぐれもよろしく伝えてくれ」

「ああ…。まあ来週にも、国上さんんところへは会いに行こうや。…それにしても、これで、鬼島の呪いとやらへの対処もだいぶ光が見えてきたな…」

「とにかくなにもかも、お前のおかげだった。和田は我が家にとってもかけがえのない友人だ。奈緒子にとっても…」

「おいおい、今日はヤケに持ち上げるな。ハハハ…」

”国上さんの施術は確かに封印に有効打を与えてるんだろう。だが、鬼島はぞれを読み込んで、更なる手を打っていたんだよ。そして、そこには恐ろしいタマを仕込んでいた…。オレにできることはやる…。和田、悪いがそのあとは頼む…。”

そして、”第二夜”は丸島を訪れた…。


***


”ここはどこだ…”

とは言え、丸島にはわかっていた。
くびれ柳の根元を覗き込んでいる自分…。

”来るー!!”

彼の予感はその姿なき者の気配によるものだった。
”その気”は丸島の首元に迫っていた…。

”ギャー!!”

丸島の首にはくびれ柳がにょろっと、さらにくびれ、何本もものムチ状の枝がくいっとしなり、次々と彼の首とは言わず顔面に向かって飛んでいった。

さらに、そのツルだか枝だかはぐるぐると巻きついて、すでに顔面は皮膚の隙間も見当たらない。
彼の両手はただ、その完全に生き物であろう枝を払おうとするのだが、どう見ても撫でている程度にしか映らない。


***


”ぐ、ぐるしい…。顔がつぶれる…”

そう…。巻きついた無数の枝はグイグイと丸島の顔面と首にめり込んでいったのだ…。
すでに彼の両手はぶらんと垂れ下がって、指先はもう動きを失っている…。

丸島が”帰還”できたのを自分自身が知ったのは、早朝4時過ぎだった。
彼は目を開けると、布団の中だった。

”どうやら、うなされて大声は出さなかったようだ。しかし…、あんな苦しいのに死ねないのか…。こんなの100夜なんて、それこそ100回気が狂うってもんだ…。この地獄…、何としても拡散は防がないと…”

もう”すべて”が見え、自分の”行き先”も自らの意思で決めた丸島には、この言葉こそ、素直な気持ちそのものであった…。


***


「…ああ、あなた、おはよう。まあ…、お顔が小さくなった感じね。気のせいかしら…」

「アカリ…、今日はちょっと遅くなるから。先に食事済ませといてくれ」

「あらあ…、あなたもいないの?昨日まではにぎやかだったのに…、今日は一人でお夕飯か…。なんか寂しいわ…」

”アカリ…”


***


その日…、丸島が高校へ姿を現すことはなかった。
そして午後2時過ぎ…。
東京都下、某所の林道で、彼は首を吊ってこの世を去った。

比較的目に付きやすい場所ということで、午後3時前には通行人に発見され、即警察に通報された。
警察は所持品で即丸島の身元を特定でき、夜6時前にはアカリの元に一報が入った。

アカリはすぐにK警察に赴くと、遺体の確認を済ませた。
その際、丸島の所持していたスマホには、アカリあてのメールの下書きから、各宛ての遺言、その他何人かの人間に向けた手紙、書面等の保管場所が記されていた。

あまりにも突然すぎた夫の自殺行為に、妻のアカリはもとより、周囲はまさに青天の霹靂とばかり、呆然となっていた。

だが…、娘の奈緒子はどこか心の受け止め方が違っていた。
それは自殺の前日までの5日間、父と接し、その様子にどことなく感じ入るものがあったせいかもしれない…。

”お父さんが自ら死を選んだ理由には、何か深い事情があったのよ…。人には言えない、よんどころのない特別な理由が…!”

奈緒子のその思いは、この時点で確信に近いものへ至っていた。
そして、それは和田宛に残された遺書と、他に別の書類と画像や資料類のデータを収めたCDの中…、その中に答えすべてが入っていたのだ…。