驚愕の施術



「そうか…。晩飯はここで一緒になあ…」

「ええ。婿さんにも了解取ってるそうだから。それで、うふふ‥、今日はすき焼きにしたわ」

”すき焼きか…。それも、奈緒子とリカも一緒に…”

その夜の夕食は、まさに丸島にとって、夢心地のひと時意外の何物でもなかった…。


***


「おじいちゃん、また来るねー」

「ああ、待ってるよ」

「…お父さん、本当に大丈夫なんだよね?」

「奈緒子…、この5日間、ありがとう。お父さんのことは心配するな。それより、お母さんの方をな…」

「お父さん…」

「さあ、そろそろ行った方がいい」

丸島は優しい笑顔を作って、奈緒子の肩をポンとたたいた。

「バイバーイ!」

「バイバイ!車に気をつけてな…」

丸島は門の外まで出て、アカリと一緒に娘と孫が暗がりで見えなくなるまで手を振り見送っていた…。

「奈緒子はいい教師になるよ。オレなんかよりずっと立派な…」

「あなた…」


***


「ああ、和田、今日も特にはな…」

「そうか…。こっちは”あった”ぞ」

”やはりか…。鬼島はそういうことで持って行くつもりだったんだ”

丸島には、和田がこれから口にすることが読めていた。

「…要はあの封、徐々に剥がれてきてる…。このままだと”開封”は時間の問題だということで、国上さんが緊急の”上封じ”を施術してくれるというんだ。それで、その”上封じ”ってのなんだが…」

丸島は和田から”上封じ”の手法を聞いて驚愕した。
霊能者の国上は、動く血のりの上から、自らの手首を切りその血を滴らせ、二つの血液を重ね合わせるという…。
そこに国上が祈祷を捧げ、鬼島の意思によって封を緩める血のりの動きを抑止するというものだった。

「なんかよう、国上さんの祈祷で、磁力を生じさせて、まあ、磁石のS極とN極の原理で遠隔操作するってイメージらしい。そこで、お前の了解をとらないといかんので連絡入れたんだが…。どうだうろう、丸島…」」

丸島は国上の提案に即了解し、その意を和田に伝えた。

「じゃあ、いいんだな、丸島…」

「ああ、鷹山さんと国上さんによろしくお願いしますと伝えてくれ。和田、本当に面倒なことに手を煩わせて申し訳ない」

「いいんだ。とにかく、今晩は国上さんの道場で夜通しの施術に臨んでくれるらしい。鷹山さんも立ち合って、状況は逐次オレに連絡してくれるそうだ。お前にもその都度知らせるつもりだが、いいか?」

「ああ。そっちが眠る前までは起きてるよ、今晩はさ」

二人はスマホ越しに何ともな苦笑を投げ合った。


***


”カチャカチャカチャ…”

その後、丸島はパソコンに向かって、数時間キーボードを叩き続けていた。

”ふう‥、何とか仕上がった”

クイーン、クイーン、クククッ…

数枚をプリントアウトし、丸島の”作業”はさらに続いた…。
そして最後に、一枚の手紙を手書した後、封筒に入れ込んで封をした…。

”トントン…”

「どうぞ…」

「あなた、大丈夫なの?遅くまで…」

「ちょうど終わったとこだよ。腰もすっかり良くなった」

「そう、よかった。さあ、熱いお茶でもどうぞ…」

「うん…」

”うまい…。はは、入れたてのお茶一杯が、こんなにもおいしいものとはな…。ふふ、何もかもこの年になって、気付くなんてな。まあ、人間の悟りなんてそんなもんなんだろうが…”


***


「ああ、今晩は他にもいろいろやることもあるんで、しばらく部屋にいるよ。お前、先に寝てていいから…」

「…あなたも今週はリカにずっと付きっきりだったものね。やることたまってるんでしょうから…。でも、あんまり無理しないでよ」

「うん。お前も昼間はずっとリカの面倒見てて、疲れただろう。ご苦労さん…」

「あらあ…、どうしたのよ。気持ち悪いわね…。でもまあ、たまには古亭主から優しい言葉ってのもいいもんねえ。うふふ‥。じゃあ、頑張って!」

アカリは鼻歌混じりに部屋を出た。
それから1時間ほどして…、丸島は和田からの着信を受けることになる。