あの夢が再び…


”開けずの手紙”…。
それはまさしく不幸を届ける手紙と言ってよい。
恨みを買う人物からの呪いが同封された手紙なのだから…。

開封すれば、その呪いは放たれる。
何しろ呪いを念じた当人は、手紙を受け取った時点ではもうこの世にいない…。
そう…、自らで命を絶ったその瞬間が怨念の発送日となるのだ…。

ささやかな終活ライフを描きながら、定年を数年後に控えていた高校教師の丸島友也は、その呪いの手紙を受け取ってしまった。

30年近く前に赴任していた学校の男子生徒だった、故鬼島則人から…。


***


教師仲間の親友、和田との”ケータイ会議”を終えた丸島は早速、コピーすべき”手紙類”をカバンに詰め込むと、足早に2階の自室から下へ降りていった。
すると、早速かわいい孫娘に捕まった…。

「おじいちゃん…、お出かけするの?」

「うん、ちょっと書類のコピーでコンビニに行ってくるよ」

「じゃあ、私もいっしょに行くー!」

すでにリカは畳の床から立ち上がっていた。

「はは…、あのね、そのあと郵便局に寄ってお手紙を頼んでくるんだ。あの郵便局はいつも混んでるから、待ってる間飽きちゃうよ。帰りにコンビニでアイス買ってくるから、一緒にお出かけはまたにしよう。それでいいかい、リカ?」

「うん!アイス待ってる」

「いい子ねー、リカは…。あなた、奈緒子と私にもアイス頼むわね。静かにお留守番してるから。気をつけて(笑)」

「はいはい…」

テレビのワイドショーを見ながら、団らん中だった”女3人”は笑顔で丸島を居間から見送った。


***


”せっかく奈緒子とリカが泊りがけでやってきた日に、まさか”あの手紙”とは…。早くカタをつけないと…”

クルマを運転しながら、丸島は”災厄”を持ち込んだ手紙の入っているバッグに目をやり、大きなため息を漏らしていた。


***


≪コピー類は発送した。明日届くと思う。画像も送信したが見たか?≫

≪見た。筆跡、同一で間違いないな。消印はやはり金曜日か。ただ、場所は前回と違う。彼の自宅から離れた場所だな≫

≪ああ。今まではずっと自宅付近と思われる○○局だった≫

≪ポストの配達時間とかを念頭にしてたかもだ。それと、裏面のシミはやはり血液っぽいな≫

≪何となく新鮮な生々しい感じがするんだ。気味悪くて触れてはいないが…≫

≪とにかくそいつは丁重に保管して、絶対開けるな。コピーが届いたら連絡する≫

≪了解≫

その日の和田とのやり取りはこのラインで終わった。


***


「ああ、奈緒子…。明日、学校へはお父さんも一緒に出掛けるつもりでいるんだけど、構わない?」

「ええ?…ああ、うん。別に大丈夫。でも何で夕食ん時、お父さん、直に言わなかったんだろう?」

「まあ、そんなもんよ、お父さんからしたら。電車の中も結構緊張してると思うわ。たぶん、手嶋さんって和田さんの教え子だった先生の話題出してくると思うから。話相手になってやって(苦笑)」

「わかった。互いに黙って睨めっこはしないようにするよ、お母さん(苦笑)」

夕食が終わり、丸島がリカと一緒に入浴している間、食器の洗い物で流し台に並んだ母娘は苦笑いが絶えなかった。


***


この夜、丸島はリカが眠りについた後、間もなく寝床に入った。

「お父さん、リカの面倒見てて疲れちゃったかな」

「でも、あんなに楽しそうな表情、久しぶりで見たわ。フフフ…、嬉しかったのよ。奈緒子の見ている前でリカと楽しく遊べて」

「…」

そんな母娘の会話が耳元に届いていたかどうか…。
学校から家に着いてからは”何かと”せわしかったせいか、丸島は寝息を立てるのに10分も要さなかった。


***


”…ここは、どこなんだ?”

丸島の視界には、濃い霧の中、柳らしき一本の木が倒れ、地面にくい込んでいる光景が写っていた。

”うすら暗い感じではあるけど、一体、昼なのか夜なのか…。不思議な光沢感だ…”

そして、その場に”音”はなかった。