その1


和田は自宅の自室で机に座り、パソコンに向かっていた。
ふとディスプレイ下の時計に目をやると、午後8時41分だった。

”今頃、国上さんは三浦美咲の措置に取り掛かってるだろう…。ふう…、眠ることをせず、うとうとして夢の中に入ったら、それを電流で刺激され口に出して報告って…。なんと過酷な…”

和田は眉間にシワを作り、首を横に何度か振っていた…。

”ププーン!”

ほどなく、手元のスマホがラインの着信音を発した。
和田が画面を確認すると、奈緒子からだった。

≪今、始まりました!美咲ちゃんはとても元気です。彼女の許可をとりましたので、ヘッドギアショット送ります≫

そして、その画像の中の美咲は、Vサインしながら明るく笑っていた…。

”何とも健気なもんだな…。やはり最初の夜は、奈緒子さんに着いててもらって正解だったかな…”

和田は、スマホに写しだされる美咲の画像をしばらく目を細めて見つめるのだった


***


第1夜は午後11時50分を迎えていた…。

”トントン!”

「はーい、どうぞ…」

美咲の元気な声が響くと、彼女の母が部屋に入ってきた。

「紅茶を入れてきましたので、みなさん、どうぞ…」

「ああ、お母さん、お気を使っていただいてすみません…」

「いいえ、どうもお疲れ様です。この子、このくらいの時間はまだ目がギンギンなので、まだ当分眠気は出てこないと思いますのので…、なんか、すいませんねえ…」

母親は国上と奈緒子双方に目をやり、しきりに、恐縮していた。

「お母さん、お気になさらず、先にお休みください。何かあれば申し合せの通り、ケータイでお知らせするかもしれませんが…」

国上がそう言った後、会釈されたので、そのあと奈緒子も一言添えた。

「お母さん、何しろ美咲さんは偉いですよ。こんなに明るく居られるなんて。あとは国上先生にお任せすれば、ご心配はいりませんよ。私もしっかり付き添いますから」

美咲の母は何度も大きく頷きながら、ヘッドギアを着けた娘の顔に向けたその瞳は若干潤んでいた…。