衝撃の符合



『もしもし、鬼島ですが…』

電話口に出たのは明らか母親のようだったが、その声は間違っても明るいトーンではなかった。
すでに和田は”大体の予測”がついたが、”すっとぼけ”は実行することにした。

「…ああ、突然すいません。株式会社ニュートライアルのサトウと申す者ですが、鬼島則人さんはご在宅でしょうか…?」

『…則夫は他界いたしました』

母親らしき女性はやや間をおいてから、か細い声でそう告げた。

「…!!!」

あまりに”簡潔な返事”で返えされて、和田はさすがに次の言葉に詰まった。

「…それは、知らぬこととは言え、大変失礼いたしました。あのう…、差し支えなかったら、いつお亡くなりに…。いえ…、こちらは街角調査のアンケートに答えていただいて、その件でご連絡差し上げたのですが…」

これは和田にとっても賭けだった。
死んだのが2年前とかであれば、今の言葉はウソだとばれる。
その際は、非通知発信なので足がつかないから、即切る腹積もりではあったが…。

『…3日前です』

「!!!」

和田は一瞬で全身が凍りついた。


***


”なんてこった!よりによって3日前って…、先週の金曜だろうが…!”

思わず彼は胸の中でそうボヤかずにはいられなかった。
だが、ここで和田はもう一粘りした。

「ああ、あの…、それは、お取込み中なのにとんだお邪魔をいたしました。御病気にはとても見えませんでしたし…、お若いのにお気の毒です」

明らかにカマかけであった。
すると…。

『息子は自殺しました。お風呂で血まみれになって…。わー、則人ーー!!』

「ああ…、おかあさん…、ご冥福御お祈りします。これで失礼します…」

和田は慌ててそう”挨拶”を済ませ、電話を切る他なかった。

”これは…!!すぐに丸島に伝えないと…”


***


手元のスマホに和田からの着信音が響いたのは、40分ほどしてからだった。

「ああ、和田。…どうだった?」

まさに恐る恐るだった。
丸島はスマホを通して”結果”を尋ねた。

「丸島…、落ち着いて聞けよ。鬼島則人は死んでた。3日前に…。浴室で手首を切っての自殺だそうだ」

「!!!」

和田は丸島に一気に告げた。
敢えて…。


***


「要するに、アンタが数十年前の記憶をいきなり脳裏に呼び覚ました日の前日ということになる。おそらくその直前に、今日届いた手紙は投函したんだろう。土日を挟むのも計算してな。…なら、推測の域ではあるが、鬼島が自ら命を絶ったのは…、アンタを”意識”しての動機からって言えないか?」

和田のその言葉は、電話機を通してながら、言いようもなく重苦しい音感を伴っていた。

”勘弁しろよ…!所詮、自らも認めていた逆恨み程度で恨みを抱いて自殺って…”

丸島は心の中で嘆き叫んだ。
まずはこれを言わずにはいられない…。
それが彼の素直な、この時の心中であった。


***


「ふう…、ここは平静になって考えていこう。オレも放っておける立場ではなくなったから、一緒に”解決”していく覚悟で腹をくくった」

「和田…、すまない…。こんな厄介なことに巻き込んじまって」

丸島は思わずスマホを耳にあてたまま、頭を2度ほど下げていた。

「何しろ、その手紙は開封するな。絶対に。その間、いろいろ当たってみよう。”それ系”全般ってことで…。まず互いにネットで」

和田の口にした”それ系”とは、超常現象・呪い・怨念・霊能者…、そういったキーワードにかかわる範疇を指していたのは言うまでもなかった。

「ああ…、今、さっそく今回の関連キーワードでググったら出てきたぞ。丸島、今パソコン開けるか?」

「うん…。じゃあ、スマホもハンズフリーにするよ…。ああ、お持たせ」

「…今から言うキーワード3つで検索をかけてみろ。おそらく、上から5番目以内に”都市伝説図書館”とかってサイトが出てくると思う」

二人はさっそく、ネットを持ち込んだ遠隔ミーティングを開始した…。