球技大会のあと、日和さんに事情を説明したら血相を変えて病院に連れていかれた。

日和さんが残業で帰りが遅い日だったから、夜間診療になったし、留守番が心配で昴流もついてきた。

結果は様子見で、酷くなるようならかかりつけ医を受診するように言われた。


「芭流姉、今日は何時に帰る?」

「今日は学校は早く終わるけど、寄りたいところがあるから何時かはわからない」

「どこに寄るの?⠀誰と一緒?」


バンッと昴流がテーブルに手をついた弾みでカフェオレが一筋零れる。

何をそんなに怒っているのか、というか心配しているのかはわからないけれど、こうなった理由は明らかだ。

時間外に病院に行くだなんて、昴流にとっては余程深刻に思えたのだろう。

平気だと何度伝えても、聞いている気がしない。


「昴流、芭流にも用事はあるよ。あまり何でもかんでも聞かないの」

「お母さん!⠀だって!」

「心配してるんでしょ、芭流もそれはわかってるよ」


そうでしょう、と話を振られて肯定するけれど、昴流は相変わらず納得していない様子で食器を片付け、先に家を出た。


「昴流のあれ、いつまで続くんだろう……」

「あの子が納得するまで続くよ、きっと。それにしても、予定や行き先まで根掘り葉掘りはちょっとやりすぎだけどね」

「はあ……今日やっぱり、昴流のお迎えに行こうかな」


ご機嫌取り、というと聞こえが悪いけれど、失った信用はこつこつ取り戻していくしかない。

用事が終わってから急げば間に合うかもしれない。

日和さんも余裕がある日だし、わたしが行く必要はないと言えばない日でもあるのだけれど。


「今日はやっと会えるんでしょう?⠀先生に」

「うん。退院したって連絡が来てたから」


数日前に恵美さんから連絡があり、先生が一時帰宅できることになったらしい。

今週末には病院に戻らないといけないから、時間のあるときに会いにおいで、と言われ、早帰りの今日がちょうど良かった。


「ゆっくり話してきたら?⠀遅くなっても迎えに行けるよ」

「そんなに遅くまではいないと思うけど……でも、うん。今日は先生とたくさん話してくる」

「喜ぶよ、その先生」


日和さんは書道教室とは一切関わりがないし、先生のことも知らない。

わたしもずっと書道のことは話していなかったし、恵美さんに会いに行ったあとに日和さんに少しだけ話していた。


「そういえば、三者面談ってそろそろじゃない?」

「え?⠀ああ、そっか、去年はあったもんね。2年生は希望があれば年明けにするって」

「あ、そうなの。じゃあまだいいか」


ぎっちりと文字で埋まったスケジュール帳の端に、芭流の面談の日程確認、と書かれていて、この時期だったことを覚えているのだなと思う。

3年次の進路に関わる面談以外で学年毎に三者面談があり、今年はいらないと勝手に考えていた。