「な,なに……?」



亜衣に勢い良く振り向いて崩れた前髪を,整えながら聞く。

亜衣は率直にちゃんと答えてくれる優秀な弟だから。

そんなに変?

やっぱり,こんなの似合わないかな……

見た目も,行動も。

そう思うと,髪型で着けた自信や勇気がすごい速度で無くなっていく。



「姉ちゃんに彼氏なんて出来たら……誰とゲームすんだよ。休日だって,カラオケ行こうと思っても彼氏に気ぃ使わなきゃいけないんだろ。小遣いだって沸いて出るわけでもないのに」



亜衣……

なぁんだ。



「大丈夫だよ……亜衣と遊ぶの,私だってもう日常の一部みたいなもんだし」



拗ね拗ねモードの亜衣に,私もうっかり絆されて。

つい,私はそんな言葉をかけた。

もちろん嘘ではない。

だけどそわそわと,何だか気持ちが浮いてしまう。

単純に,なんだか素直だなと思った。

そして,亜衣は私がフラれるなんて思ってないんだなと感じとってしまったら,凄く嬉しくなった。



「それより。いいの」

「え?」

「急いでたんじゃないの?」



亜衣の指摘が,何を指しているのか。

理解した私は途端に顔を青くする。

バタバタと色んな人にあげるチョコを,学校の遠足などで使うお弁当入れに保冷剤と共に仕舞い込み,私は叫んだ。



「いってきます!!!」



ー今日は,バレンタインだ。