キミと世界が青めくとき 【完】



家を出て待ち合わせの駅まで向かう途中、三軒隣の家から広大が出てきた。

そこは広大の家だから仕方ないといえばそうなんだけど、どうしてこのタイミングで出てくるのか。



「よう。⋯どっか行くのか?」



広大もわたしに気付き、訝しげな目を向ける。

図書館ではないと思ったのはきっと、わたしが大きめのカバンを手にしているからだろう。

普段はBBQの時と同じポシェットを掛けているから。



「⋯海に」

「あ?」

「海に、行ってくる」



広大の視線がなんだか痛くて俯き加減のままそう呟いたわたしに返ってきたのは「海だぁ!?」という広大の驚いた声で。



「一人で行くのか?」

「いや⋯」

「なら誰と?」

「⋯」

「海に行く友達なんてお前に居ないだろ」



それは、少し前だったら大正解だった。

だけど今は、ハズレだ。

わたしは友達と言ってくれた知春先輩と海に行く。



「いるよ、友達」

「嘘つくなよ」

「嘘じゃないし」

「いやいや、お前に海行く友達なんて⋯」



居ないと決めつけてくる広大に、少し前のわたしだったら傷ついて落ち込んでいたと思う。

だけど今は傷つくというよりも苛立ちの方が大きい。

どうして決めつけるのって、広大は小さい頃からずっと一緒にいるけれどわたしの全てを知っているわけじゃないくせに。むしろ知ろうとなんてしていないくせに。



「わたしにだって、友達だって言ってくれる人が出来たの」

「⋯本当に海なんて行くのか?」

「だからそうだって言ってるでしょ」

「⋯ソイツって本当に友達なのか?」

「⋯どういう意味?」

「だって澄はそういうの嫌いだろ?」

「そういうの?」

「アウトドアっつーか、この前のBBQだって来たのにビックリしたし⋯」

「確かに、わたしはインドア派だよ」



ここで漸く、広大の言葉に心配が含まれている事に気付いた。
わたしに友達なんていないと決めつけている事には変わりないけれど、もしかしたら無理矢理海に連れていかされているんじゃないかって心配してくれているのだ。と、思う。
そう考えたらさっきまで感じていた苛立ちは瞬く間に消えていく。


だけど違うんだよ、広大。



「BBQの時とは違う」

「何がだよ?」

「それにわたし、海好きなんだ」

「⋯」



知春先輩は、わたしが人見知りな事を考慮して二人で行こうって言ってくれた。

誰にも言った事がない海が好きだという事を、初めて引き出してくれたんだよ。



「もう時間がないから行くね」



さっき凛に言った事を広大にも告げて背を向ける。



わたし達の関係が少しずつ変わり始めた瞬間だった。