「なっ、何か面白い事なんていいました?」

「うん、言った言った」

「わたしにはどうして先輩が笑っているのか全然理解出来ないんですけど」

「っは、超面白いじゃん」



笑い過ぎて目尻に涙まで浮かべている先輩は、それを拭いながら乱れた息を整えた。

知春先輩の笑い声はやっぱり、ケラケラコロコロしていて心地がいい。



「あのね、キミ。よーく聞けよ?」

「⋯はい」

「俺は澄と行きたいから誘ってんの」

「⋯」

「海に行きたいんじゃなくて、⋯いや、それも勿論あるけど、大事なのは誰と行くかだろ?」

「誰と行くか⋯?」

「そう。友達とも行きたいから行くし、俺は澄とも海に行きたいから行こうって言ってる」

「⋯」

「意味なんてそんなもんないよ」

「⋯意味は、ない⋯」

「俺が澄と行きたいからってそれだけの理由だよ」



まるで小さい子どもに話すみたいに言葉を紡いでいく先輩は、真っ直ぐにわたしを見つめている。

その瞳は、もしかしたら普通の人より色素が薄いだけじゃなくて光を反射する強さも普通の人と違うみたいだった。

うるうるとして、キラキラ光る瞳は、たくさんの光をその瞳に吸収させている。




大切なのは、誰と行くからしい。


あるのは意味ではなく、理由らしい。




「夏休みも、わたしと遊んでくれるんですか?」

「何その言い方。かわいーじゃん」

「⋯」

「遊ぼ。いっぱい。キミの友達は俺しかいないみたいだから嫌ってほど連れ回してあげるよ」

「友達⋯?」

「そ。友達じゃん、俺ら」



そう言って笑った先輩の笑顔は目を細めたくなるほど輝いていた。



人が嫌いだった、怖かったわたしは、いつのまにか知春先輩という人間と関わりを持ち、それを無くしたくないと思っていたみたいだ。

友達と言われたその響きは全然嫌なんかじゃなかったから。