温度を変えた先輩が戻ってきて隣に座る。
汗ひとつかいていないのに、「あっちー」と手で首元を仰ぐ先輩はかなりの暑がりなのかと思う程だ。
「海、いいですね」
「ん?澄は海が好きなの?」
「はい。といっても小さい頃に家族旅行の時に数回海に行った事があるというだけで、実際の海を見たことは数回程度なんですけど⋯」
「うん」
「写真とかで見て綺麗だなって」
「そうだな」
記憶の中の海は、深い青色をしている。
手に水を掬ってみるとそれは透明なのに、なぜか広い海は青色をしていた。
わたしは海の青色がとても好きだった。
太陽の光に照らされてキラキラ光る海はそこにあるだけで心安らぐような色をしていた。
「澄も行く?」
「───え?」
記憶の中で昔見た海を思い返していれば、隣から聞こえてきた先輩の声はどこか楽しそうで。
「澄も海、行く?」
「わたしが⋯ですか?」
「うん。あ、もちろん俺と二人で」
「二人で⋯」
「その方がいいでしょ。俺の友達と海行こうぜって誘っても絶対キミ来ないでしょ?」
「それは⋯まあ、」
「だから、俺と二人きりで行こ」
「二人きりで⋯」
「うん」
“二人きり”という言葉に、変に緊張してしまうわたしはおかしいのかもしれない。
知春先輩とわたしの間には何も緊張する事なんてないのに、二人きりってどういう事?なんて到底わたし一人じゃ出そうにない答えをグルグル考えてしまう。
「⋯⋯えっ、と、」
「うん?」
「先輩は、お友達と海に行くじゃないですか」
「うん」
「なのに、わたしとも海行くんですか?」
「え?」
「わたしと行く意味ってあるんですか?」
戸惑いつつも何とか発した言葉に、知春先輩は目を点にして数秒固まる。
そして──────、
「アハハっ、やっぱ澄ってウケる」
突然声を上げて笑い出すから、わたしはただただ驚くしかなかった。



