「─────澄」
一人でお弁当を食べていれば、教室の入口からわたしを呼ぶ声が聞こえる。
「⋯広大、」
「ちょっと来てくんね?」
そこには中途半端に開いたドアに寄り掛かる様にして立つ広大の姿があって、何かわたしに用があるみたいだった。
丁度お弁当も食べ終わったところだったから、包みにお弁当箱を仕舞って席を立つ。
こうして広大がわたしを呼びに来ることの理由は大方、予想がついていた。
「英和辞典持ってる?」
「あるけど⋯」
「貸してくんね?」
教室を出てすぐの廊下の端で言われた言葉にやっぱりと思った。
「いっつもじゃん」
「重いしわざわざ持ってくんの面倒なんだよ」
「持ってきたらそのまま学校に置いておくんだよ、ああいうのは。許可されてる」
「説教はいいから貸してくれよ」
置き勉は禁止されているはずなのに、いつもペラペラで軽そうなリュックを背負っている広大は絶対に置き勉をしている。なのに学校に置いておいて良いと許可されている辞書類は何故か置き勉しないらしい。
というか、そもそも一回も持って来たことがないのではないだろうか?
こうして広大に辞書を貸してくれと言われるのは一度や二度ではないから。
だから珍しく広大がわたしの教室にわざわざ来た時、すぐにピンときた。また何か貸してくれって言いに来たのだと。
「もういい加減にしてよ。わたしの辞書はわたしの辞書であって広大との共用じゃないんだから」
「え、そうだっけ?」
「惚けても無駄」
「ま、いーじゃん。いつもお礼してんだし。山セン忘れ物にうるせーじゃん」
「⋯今日のお礼は?」
広大に貸したところで違うクラスのわたし達は授業が被る事はないし何も困らない。
その上お礼として広大が何かしてくれるなら⋯と狡い考えを持ったわたしは広大を見上げた。



