「母親に怒られて拗ねてる俺に、じいちゃんがカメラを渡してくれた。今はもうやってないけど、元々街の写真館だったじいちゃんは<これで好きなものを撮ってみろ>ってそれだけを言ってこのフィルムカメラをくれたんだ」
「そうだったんですね」
「撮り方もカメラの使い方も何も教えてくれなかったけど、それから俺はこのカメラで目についたものを撮りまくって⋯で、カメラに夢中になった知春少年はカッコつけるとかどうでも良くなって雨の日も傘を差すようになった、とさ?」
「なんで最後疑問形なんですか」
「いや、だってキミからしたら興味無い俺の思い出話を聞かされて退屈だったろうなって最後の最後で反省して」
「退屈なんかじゃなかったですよ」
「本当に?」
「本当です」
そう言って頷くわたしに先輩は安心した様に「ならいーけど」と言った。
あまり、人は好きじゃないし苦手だ。
それなのにわたしは今、知春先輩とこうして過ごす放課後も隣で話される事にも不快感を感じないし、いつも人と話す時に感じてしまう恐怖も感じない。
知春先輩との空間は常に穏やかで、会話のテンポだって合っている気がする。
もちろんそれはわたしが勝手に感じているだけで先輩はどう思っているのかわからないけど、わたしは放課後のこの時間が心地いい。
好きな本を読んで、隣に知春先輩がいて。
時折こうしてなんて事ない会話を交わす。
この心地良さはなんだか、感想ノートの返事をくれる人と似ている気がしたんだ。
それは、きっと、感想ノートの彼は感想を書き込んでいるのがわたしだと知らないから。
知春先輩も、吉川澄というわたしを知っているだけでわたしに凛という双子の妹がいる事をしらないからだ。
もしかしたら先輩がわたし達の事を知っている可能背はあるけれど、わたしはそれを知らない。
先輩が凛を知っているかどうかなんてわたしにはわからないから、普段感じている劣等感を気にすることなく居られるんだと思う。



