「──────今日雨だな」
窓に打ち付ける雨粒を見て先輩が呟く。
それは丁度わたしが本を一冊読み終えたタイミングで、今の今まで黙っていた先輩はタイミングを見計らったのだろう。
だからわたしも本を閉じて答えた。
「雨ですね」
「雨の日っていえば俺、小学生の頃傘を差すって行為が好きじゃなくてさ」
「傘を差す事が?」
「うん。なんつーか、カッコつけたい時期だったんだよ」
「カッコつけたいと傘を差さない事に何の関係があるんですか?」
「え、わかんない?」
「全く」
いつもの様に頬杖をつきながら窓の外を眺めている先輩の目が、時折わたしを見てはイタズラに細められる。
「当ててみてよ」
「先輩ってクイズが好きなんですか?」
「外れた時にブッブーって言うのが好き」
「趣味悪いですね」
「そんな事ないよ」
ケラケラコロコロした先輩の笑い声は、例えるなら鈴虫のよう。
人の笑い声を虫に例えるのが適切なのかどうかは置いておき、常にケラケラ笑っている先輩の声は全然不快ではない。
むしろその笑い声に心地良さを感じて落ち着くくらいだ。
そういう所が鈴虫に似ていると感じる。
鈴虫もずっと鳴いているのに、その声は全然耳障りなんかじゃない。
「先輩って鈴虫ですよね」
「え、唐突に何?」
「⋯なんでもないです」
「気になるんだけど。え?俺、虫なの?」
「忘れてください」
「えー⋯、」
色々とすっ飛ばして知春先輩を鈴虫だと言ってしまい、だけど今から色々と訂正しながら説明するのは面倒だし⋯とそう言えば先輩は納得していない表情で「今日は忘れろばっかだな」と零した。



