沖縄から始まり、ついに関東にも梅雨がやってきた。



変わらずわたしは本を読むことを日課としているし、感想ノートでのやり取りは続いている。



パラりとノートを開いて、返事が返ってきたかを確認すれば、一昨日書いたミステリー小説の感想に返ってきた返事は〈犯人誰?〉だった。


感想ノートといえどネタバレはご法度だろうとその返事に笑みが零れて、だけどどうせこのノートはわたしと彼しか見ないのだから⋯と犯人のヒントを返事の下に書いてみる。


この人がどんな人なのかなんて知らないけれどきっと読書家ではないのだろうと思う。

返事はいつも一行や二行の簡単なものだし、彼がわたしが感想を書いた本を読んだ形跡はない。

というのも彼は返事ばかりで感想を未だに一度も書かないから。
勿論、未だに彼が本の感想を書き込むこともない。

考えれば考える程この人は不思議な人だなあと思うけれど、この距離が心地いい。




「そのノートは?」



図書室の入口のカウンターでノートを見ていたわたしの背後から軽快な声がして振り返る。

真後ろと言っていいくらいに近い距離に立っていたのは知春先輩だった。



「⋯っビックリした⋯、いきなり後ろに立たないでくださいよ」

「一応やっほって声掛けたんだけどキミが無視したんだよ」

「⋯聞こえてませんでした」

「やっぱり。ま、そんな事はさておき、そのノートって何?」



梅雨に入っても毎日放課後の図書室にやって来る知春先輩がわたしの手にあるノートに視線を落とす。



「あ⋯、これは感想ノートです」

「感想ノート?」

「はい。読んだ本の感想を書き込むノートなんですけど⋯今のところわたししか使ってないです」

「⋯ふうん」



書いた感想に返事が来ることが密かな楽しみなんですと言うのはなんだか照れくさくて言わないでおいたわたしに知春先輩は意味深な瞳を向けた。