わたしは本を読む時間が好き。

友達もいないわたしは休み時間や放課後は図書室に行き、本を読むことを日課としている。

うちの高校は図書室とは別に自習室があるからわざわざ図書室で勉強をする人はないし、放課後はほとんどわたし専用と化している図書室は本当に静かで。

一人の空間で大好きな本を読む。

この時間はわたしにとってかげがえのない、無くてはならない時間だった。



そして今日も、静まり返った図書室にはわたしのページを捲る音しかしない。

僅かに開けた窓からは春の柔らかい風が吹き抜けてわたしの黒髪を微かに揺らす。

時間を忘れて⋯というのはこういう事なのだろう。本を一冊読み終えて静かにページを閉じる。

今日読んだのはミステリー小説。

うん、犯人は大体予想出来ていたつもりけれど、終盤のどんでん返しには度肝を抜かれた。



今回の本も面白かったなと満足感に浸りながら、図書室入口のカウンターにある小さな本棚から一冊のノートを取り出す。

このノートは感想ノートといって、本の感想を生徒が自由に書き込む事が可能になっている。
といっても利用者の少ない図書室で、わざわざノートに感想を書き込む生徒なんてわたししかない。─────はずだったのに。


最近、わたし以外の人物が感想ノートに感想を書き込んでいる。

それはべつにいい。

このノートはわたしの所有物ではないし、感想を書き込むのは自由だから。

だけどそのある人物が書き込む感想はちょっと変わっていて、何故かその人は本を読んだ感想ではなくてわたしの書いた感想に対して返事を書いている。


例えばわたしが〈主人公のこの場面の心情の表し方が衝撃的で主人公の抱えていた悩みが叫びとなって心に突き刺さる〉とか〈文字を読んでいるはずなのにその景色が自然と目に浮かんできてオススメ〉とか、完全に自己満足のその感想にその人物は何故か返事をする。


それも感想に対しての返事ならまだしも、その人から帰ってくる言葉は〈そうなんだー〉とか〈このタイトル微妙じゃね?〉とかそんなもの達ばかりで、わたしが感想をノートに書き込む度に返ってくるその返事に戸惑いを感じずにはいられなかった。