キミと世界が青めくとき 【完】



段々と蒸し暑さを感じてくる六月初旬。




「なぁ、暑くね?」

「そう思うなら帰ればいいじゃないですか」

「なんでそんな冷てぇの?つーかここ冷房あるじゃん、つけていい?」

「まだ冷房はダメです」



知春先輩は飽きもせず図書室へとやって来る。


今日も「何読んでるの?」と始まった会話はわたしが本のタイトルを答えることで一度終了して、またポツポツと始まる。

それは先輩が適当に手にした本をペラペラ捲ることに飽きたり、手持ち無沙汰になると始まる。

隣に人がいる事に対して最初こそ落ち着かなかったけれど、今では隣に知春先輩が座ってもあまり気にならない。



「まだ冷房はダメってどういうこと?」

「わたしのルールで梅雨が明けるまでは冷房をつけないんです」

「なにそれ。熱中症なるよ?」

「さすがに暑すぎる日はつけますけど、今日はまだまだいけます」

「今日がさすがに暑すぎる日だと思うんですけど?」

「⋯大丈夫です」



六月初旬の今日、微かに夏の気配を感じるけれどまだ梅雨入り前だし気温だってそんなに高くない。



「えー、俺暑いんだけど。つけてい?」

「そこまで言うならつければいいじゃないですか」

「あは、やっぱいーや」



図書室にはエアコンが完備されている。
それは誰でもつける事が出来るわけで、誰かの許可が必要なわけでもましてやわたしの許可が必要なわけがない。


だから入口横にあるエアコンのスイッチを目線で指せば、さっきまで暑いを連呼していた先輩はあっさりと引き、椅子の背もたれに背中を付ける。



「暑くないんですか?」

「暑いけど、冷房つけるほどじゃないなって」

「さっきと言ってること違うじゃないですか」

「まっ、そんな事もあるよ」

「知春先輩って、たまに人をイラッとさせますよね」

「んなことないよ」



可愛げのない、生意気な後輩だという自覚はある。

だけど先輩は怒ることもそれを注意することもしないから、わたしはそんな先輩に甘えて後輩として相応しくない態度を取ってしまう。



「⋯⋯すみません」

「ん、何が?」

「生意気言いました」



だけどやはり、後輩として今の言い方はさすがにダメだろうと謝れば、知春先輩は優しげな目元を更に柔らかく細めて笑いながらわたしの頭を撫でた。