「先輩は写真が好きなんですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「でも昨日もカメラ持ってたし、こうしてわたしに自分が撮った写真を自慢してくるじゃないですか」
「自慢ってなあ⋯?」
「撮ることが好きなんですか?それともカメラ自体がお好きとか?」
わたしの質問に先輩は少し嬉しそうな表情を見せる。
それはわたしの質問の中に答えがあるという事。
誰だって、わたしだって、好きなものの話をする時は表情が柔らかくなるはずだから。
現にわたしも、先輩が本のことを話す度に嬉しい気持ちになる。
感想ノートの返事を楽しみにしている理由だってそうだ。
誰かに好きなものを知ってもらう事や話す事はとても楽しい瞬間なのだ。
「俺は、撮る事が好きなんだ」
「撮る事、ですか⋯?」
「そ。いいなって思う瞬間を見つけるのも好きだし、その瞬間が俺の手で永遠になると思うとなんとも言えない喜びを感じる」
「写真が好きというよりも、写真の中の空気感が好きなんだよ」
「写真の中の空気感、ですか?」
「そ。被写体を見つける瞬間も撮ってる時の感覚もその光景も結局は写真に残る。だから俺は写真を撮ることが好きなんだよ」
「それは写真が好きとは言わないんですか?」
「俺の感覚ではちょっと違う。俺は人が撮った写真には興味ねぇし、写真展とか行ったことも無いし」
「⋯ちょっと難しいです」
先輩の言っていることがわかるような、わからないような⋯と言えば、カメラを手にした先輩は「難しいよなぁ」と困ったように笑った。
だけど先輩の話は、よくわからないけど、よくわかる気もする。
先輩の気持ちが、少しだけわかる気ような気もする。
「わたし、本が好きなんです」
「うん?」
「でも、なんで本が好きなのかって聞かれると明確な答えがないというか⋯。もちろん本を読むことが好きなんですけど、わたしは本を読んでいる時間が好きだとも思うんです」
「うん」
「物語の世界に入っている時間が好き⋯というか」
「うん、」
「本が好きというより、本を読んでいる時間が好きと言った方がしっくりくるんです」
「時間が好き、か」
「はい。本を読んでいる時は純粋に楽しいし、自分だけの世界を造り上げる事が出来る。だからわたしも本自体が好きというより、本を読むことが⋯本を読んでいる時間が好きだって思うんです」
わたしの言葉に先輩も「難しいですね?」と悪戯に笑う。
だけどなんとなく、今わたし達はお互いの言おうとしている事がわかった気がするんだ。



