一ページ読み終え、ページを捲る。
今日も図書室にはわたしだけの世界が広がっている。
野球部を始めとするグラウンドから聞こえる運動部の声も今日もどこからか聞こえてくる吹奏楽部のチューニング音も図書室まで届いているけれど、それでもそれは取りに足らないただの音。
物語の世界に入り込めば、それは無音と同じになる。
歴史小説も意外と面白いものだな⋯と思いながらまたページを捲る──────、
パシャリ、
昨日と全く同じ音。
どうしてかわたしはその音を無音化出来ないらしい。
昨日と同じように本から顔を上げて音のした方を見る。
予想通り、そこには彼が立っていた。
─────知春先輩が。
「こんにちは」
「⋯おつかれ様です」
「お疲れ様って」
「何か用ですか?」
何が面白いのか常に笑みを携えている知春先輩は今日は椅子に座らず、わたしが使っている長机に浅く腰掛ける。
机に座るなんて⋯と思いつつもお行儀悪いですよ、とは言わないでおく。
「今日は何読んでんの?」
「歴史小説です」
「うわ、難しそー」
「それで、何か用ですか?」
早く出て行ってくれと言わんばかりに細めた目を向ければ、先輩は昨日と同じように手にしていたカメラを机に置く。
どうやら今日も居座るつもりらしい。
だけどどういう訳かわたしはそれを嫌だとは思わなかった。
出て行って欲しい気持ちはあるのに、話しかけて欲しくないとも思うのに、それは事実なのに、先輩と話すのは苦ではないなって気持ちもあって。
それはきっと先輩がわたしに本の話を必ず振ってくれるからだろう。
⋯必ずといってもまだ二回しかこうして話したことはないけど、昨日も今日も。
知春先輩はまず、わたしに本の話をする。
だからわたしは気こそ進まないものの、こうして先輩と会話をしているのかもしれない。



