今日も図書室には誰もいない。
紙特有の匂いを感じながら、感想ノートを手に取る。
開いたページには一つ前に読んだ本の感想が書かれている。
書かれているといっても書いたのはわたしだ。
そしてその下には返事が書かれていた。
〈僕も青好き〉
たった一言。
右上がりのその文字はノートの三行を使って書かれていて、いつも大きい字で返ってくるそれにわたしは何故かいつも優しい気持ちになる。
「僕も、青好き⋯」
これはわたしが書いた感想の一部を切り取って返事をしてくれたのだろう。
青色がわたしは好きなのだけど、この本は特に深い青色をした表紙が綺麗だ。と書いたから。
もう一つ前の青春群像劇を題材とした小説の感想を書いた時に〈青い表紙が綺麗だった〉と返事をくれたその人。
だからわたしは、青い表紙のこの本の感想をわざわざ書いた。
この返事をくれる人物が返事をくれるのはきっと気まぐれで。
だからわたしは、その気まぐれがなくならないように、この人が興味のありそうな事をわざわざ書いた。
わたしが感想を書いて、それに返事をくれる。
たったそれだけの関係がなくならないように。
カウンターのペン立てからボールペンを取り、新しいページを開く。
そしてそこに小説のタイトルを記入してわたしは感想を書く。
恋愛小説の感想を書くのは少し恥ずかしい。
もしそこにミステリーや人間の愛憎劇が書かれているのならまだしも純粋な恋愛小説となると照れくさくなってしまう。
だけどやっぱり本を読んだ後はたくさんの感情に溢れているから。
今まで自分の中に溜め込むだけだったそれを文字に起こす事でなんだかスッキリした気持ちになる。
ミステリーでも恋愛小説でも青春小説でもなんでも。
感想を書くことによって、心が落ち着くような感じがする。
そうして今日も感想ノートを書いて、元の棚へと戻した。



