「じゃ、俺は邪魔者みたいだからそろそろ帰るわ」
「邪魔者なんて言ってませんけど⋯」
「言ってはないけど思ってはいるんだろ?」
⋯否定は出来なかった。
一日の楽しみである放課後のこの時間。
それを邪魔された事は事実だったから。
黙り込むわたしを一瞥して微笑んだ先輩はそれを咎めることをせずに椅子から立ち上がった。
「それじゃーまたな」
「⋯さよなら」
「はは、バイバイ。澄」
わたしと先輩は“また”なんて言い合う間柄ではない。だからわざと“さよなら”と言ったのに知春先輩はクシャりとわたしの頭を撫でてドアの方へと向かっていく。
パタン、と静かな音を立てて閉じられたドア。
再び図書室には静寂が訪れる。
「⋯澄、」
少しだけ乱れた頭頂部の髪の毛を整えながらポツリと呟く。
するとよくわからないムズムズした感覚になって、なんだか今日はこれ以上本を読む気にはなれなかった。



