キミと世界が青めくとき 【完】





「何、言ってるの⋯?」

「何って、この際だからわたしの本音を話そうと思って」

「本音?」

「そうしないとあまりにも橘先輩が可哀想だからさ」



そう言って昨日の広大と同じ様にテーブルに腰を掛けた凛はスカートの上で両手を軽く握って、その指先を心許なく絡めた。

モジモジとしたその仕草に、凛も相当勇気を持って今話をしてくれようとしているのだとわかる。



そして凛が伝えてくれた思いはあまりにも衝撃的で、にわかには信じられないものだった。




「わたし小さい頃からお姉ちゃんが羨ましくて仕方なかった。だけどそれと同じくらい憎くもあったんだよ」

「⋯どういう事?」

「お姉ちゃんはわたしと比べられていたから苦しかったのかもしれないけど、比べられていたのはわたしも同じだったんだよ?」

「⋯っ!」

「確かに人はわたしの周りに集まったし、友達もわたしの方が圧倒的に多い。自分でも愛嬌があるなってわかってるし、それをどう使えばいいのかも知ってる。⋯お姉ちゃんがわたしと比べられて敬遠されてたってのも知ってるし、お姉ちゃんがそのせいで劣等感の塊になっちゃってるのもわかってる。でも、所詮わたしなんてそれだけで、お姉ちゃんの劣等感なんて石ころみたいなもんだよ」

「⋯」

「だってそうでしょ?お姉ちゃんは本当は劣等感なんて感じなくていいくらい何でも持ってるじゃん。わたしが欲しいもの全部、持ってるじゃん」



そう言って自嘲気味に笑った凛にわたしは戸惑ったまま何も言えなかった。

比べられて苦しかったのは自分だけではなかったのだと、初めて気付かされた。



「お姉ちゃんは勉強も出来るからお母さん達に期待されてるし、信頼されてる。それに広大にだって好かれてるじゃん」

「っ、広大のこと、知ってたの?」

「むかーし相談されたからね。あ、わたしは広大のこと好きとかじゃないよ?ただ、そう想ってくれている人がいるお姉ちゃんが羨ましくはあった」

「‎…凛は付き合った人だって何人かいたでしょ?」

「そうだけど、広大ほど真っ直ぐは誰も想ってくれない」

「⋯」

「軽い好き、なんだよ。表面ばっかり見て好きだって思われていただけ。⋯覚えてる?昔、バレンタインデーのチョコをお姉ちゃんに作ってもらった事」

「覚えてるよ」



あの時はどうして凛の彼氏宛のチョコをわたしが作らなきゃいけないのか意味がわからなかったし、わたしは凛の都合のいい駒で影武者なのだとそう思った。

だけどどうして今その話が出てくるのだろうと眉を寄せたわたしに凛はふっと笑う。



「ああやって取り繕わないといけない関係だったの。わたしは彼に料理が壊滅的に苦手ですと正直に言えなかったし、彼もわたしには可愛くて上手な手作りチョコを期待していた」

「⋯よく意味がわからないんだけど」

「お姉ちゃんのそういう所が羨ましい。⋯あのね、つまりわたしが付き合ってきた人達はわたしの全てを受け入れてはくれないし、わたしも全てをさらけ出せなかったんだよ。取り繕わないと続かない関係、つまりこれが軽い好きって事」

「⋯」

「でも広大は違うでしょ?お姉ちゃんが本ばっか読んでても、友達のいない寂しい奴だったとしてもそれがお姉ちゃんだって思ってる。本ばっかってのは寂しかったかもしれないけど、広大は友達の数なんて関係ない。お姉ちゃんそのものが好きだったんだよ」

「⋯っ」

「お姉ちゃんは広大前で可愛こぶったり取り繕ったりしないでしょ?それで好きだって思われてるんだからわたしからしたら羨ましいの。すごく、すごくね」



そう言いながら目を伏せた凛の気持ちがわたしにはあまり理解出来なかった。

確かに凛は彼氏とあまり長くは続いていなかったけれど、それでも凛を好きだと想ってくれた人の数は遥かにわたしの広大ただ一人を超えていて、その時の凛は幸せそうだったのに。

本当にそれが表面上の軽い好きだったのかなんてわからないのに⋯。

だけど、理解は出来ないけど、その辛やさ寂しさは伝わってきた。


姉だから、双子だからこそわかる。

それはシンパシーなんてものではなく、長年一緒に過ごしたからこそ。

今の凛の表情に嘘はない。


辛さも苦しさも寂しさも、全部伝わってくる。