「悪かった、今まで」
「っ」
「澄が周りからどんな事言われてるかとか、澄の性格とか知ってたはずなのに、マジでガキみてぇにどうしたら良いのかわからなくて冷たく接してた」
「⋯っ」
「⋯拗ねてた部分もあると思うし、羨ましかった部分もある。好きなものがある澄が羨ましくて、そればっかな澄に拗ねてた」
「なに、それ」
「ダセェけど」
そう言って前髪を掻き上げるようにして照れくささを誤魔化した広大につい笑ってしまう。
もう、馬鹿にされているとは思わなかったから。
本“ばっか”とか本を読むわたしを鬱陶しそうにしていたのは単なる嫉妬だったわけだ。
広大が図書室に居るなんて想像もつかなくて、そういう広大だからこそ毎日図書室に行き本ばかりを読むわたしにどう接すれば良いのわからなかったのかもしれない。
そのもどかしさがああいう言葉に表れていたのだとしたら、わたしはもう傷付いたりしない。
広大はわたしのことを本当に好きでいてくれて、大切にしようとしてくれていたのだ。
それは恋愛対象としてだけでなく、一人の幼なじみとしても。
「⋯今朝はああ言ったけど橘先輩は澄のこと一人の人間としてちゃんと見てるよ」
「⋯うん」
「きっとあの人には可哀想だからとかいう下心なんてない。それは澄が一番わかってると思うけど」
「うん、わかってる」
「よかったな、友達出来て」
そう言いながら優しく微笑んだ広大のこんなに柔らかい笑顔を見たのはいつぶりだろう。
こんな風に笑顔をわたしに向けてくれたのは、いつ以来なんだろう。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」
「うん、」
「暫くは澄のこと好きなままだろうけど、そのうち諦めるから」
「っ」
「だからこの先も俺らは幼なじみって関係でいような」
それは広大なりの優しさで。この先わたし達の関係がギクシャクしないようにという気遣いで。
「うん、ありがとう広大」
「また忘れ物あったら借りに行くわ」
「なにそれ。ちゃんと持って来なきゃダメだよ?」
「⋯また明日な」
「⋯またね」
わたし達の関係は明日から変わり始める。
だけどそれはきっと、良い方向にだと思う事が出来るのは今日こうしてお互い本音で話合えたからだと思う。
広大がいなくなった後の図書室はなんだかいつもとちがった空気が流れている気がした。