「─────俺は、」
カタン、と音を立てて広大がテーブルから腰を上げる。
同じくらいだった目線は変わり、わたしは広大を見上げる形になる。
「俺は澄が好きだけど凛も同じように大切だ」
「⋯うん」
「澄も凛も大切な幼なじみだ」
「⋯うん」
「ちゃんと、二人が大切なんだよ」
広大が何を言おうとしているのかイマイチよく分からなかった。
だけど次の言葉を聞いた瞬間、わたしが長年感じていた劣等感や窮屈さがほんの少しだけ和らいだ気がしたんだ。
「澄には澄の良さがあって凛には凛の良さがある。比べた事なんてねーよ」
「っ」
「俺にとっては、“二人”とも大切な幼なじみだから。⋯簡単には信じられねぇかもしれないけど、これは本当だ」
もしかしたら、わたしが卑屈すぎるせいで誰かのそういう思いをこれまでも見落としてきたのかもしれない。
比べられている。そう思って自分の殻に閉じこもった。だけど広大は違ったのかもしれない。
実際にわたしと凛を比べてわたしを蔑んでいた人は居ただろう。だけど身近な広大はそうではなかった。それをわたしは見落としていたんだ。
以前先輩は自分を卑下する必要はないと言った。自分で自分の価値を下げても何の意味もないと言った。
今ならその意味がよくわかる。
わたしなんて、わたしなんか、そう思っていたら、わたしの中でそれが全てななってしまう。それが事実となってしまう。
真実は違うかもしれないのに。
広大もわたしを可哀想だと思っている。
凛と比べている。
わたしなんかを好きになるはずがない。
わたしの中でそれが事実になってしまっていたから、本当は違ったのにそれに気付けなかった。
本当に何の意味もなかった。
卑屈になって、わたし“なんか”と自分自身を蔑んだところで何の意味もなかった。
ただ大切なものを見失っていただけだった。