「そんなに見つめられると照れるんですけど?お嬢さん?」
「っ!」
隣に座る先輩と目を合わせることすら恥ずかしかったのに、瞳の色に夢中になっていたわたしはガッツリと目を合わせていた様で。
茶化すように笑った彼に、ハッと息を吸い込んだ。
「ご、ごめんなさい⋯」
「いや俺はいいんだけどさ」
「⋯すみません、」
「キミは照れると頬じゃなくて耳が赤くなるんだねぇ」
「はっ、?」
「クールな子かと思いきや照れ屋さんですか?」
「⋯っからかわないで、ください」
「ははっ、ごめんね」
楽しそうな先輩と、なんとも言えない気持ちのわたし。
からかわれる事は嫌だし、先輩の掴めない口調もさっきから癪に障る。
だけどどうしてか湧き上がってくるのは怒りではなくて。かといって嬉しいとかそういうんでない。
この感情にしっくりくる言葉は恐らく、むず痒いだ。
「なぁ、」
本から手を離して耳を意味もなく触っていたわたしに先輩は頬杖をついたまま柔らかく笑う。
サラリと風に揺れる黒髪は瞳とは正反対に真っ黒で、そのミスマッチさが彼を儚く思わせた。



