「凛と広大を応援するっていうのもただの自己満足なんです。わたしを選ばない広大が凛ではない人を選んだらそれはそれで凄くショックだと思うから⋯。広大と凛だから許せるんです。むしろ広大の相手は凛じゃなきゃいけないって、勝手にそう思っているだけなんです」
わたしは劣等感の塊だ。
存在自体がコンプレックスだ。
それが苦しくて悲しくて⋯、
「⋯寂しかったね」
「っ、」
「妹と比べられて、好きなものも否定されて。澄は本を読んでいる時間以外、逃げ場がなかったんだね」
「⋯辛かった、です」
「⋯うん」
とっくにパンを全て食べ終えた先輩の空いている手のひらがわたしの頬を撫でる。
いつの間にか流れていたらしい涙を拭うその指は、いくつもの宝石の様な景色を残す為にシャッターボタンを押してきた、愛しい指先だ。
「先輩は昨日言いましたよね。<本当に好きなものって、結局は譲れないから>って」
「うん。言った」
「わたし、ハッとしました。広大のことを純粋に想っていないから譲れるんだっ⋯て。譲るという表現が適切かは定かではないですけど、凛になら⋯って思ってはいたから。だけどその時点でもう広大への想いは無かったんですね」
「⋯本心?」
「はい。広大に失礼な事をしてしまっていました。わたしはわたしを守る為に広大への想いを利用していたんです。でも、もうごまかすのは辞めます」
それに気付けたのは、逃げ場をわたしのなかではなく、外に作ってくれたから。
こうして先輩が話を聞いてくれて傍にいてくれるから。わたしの世界を尊重して大切にしてくれたから。
「わたし、本を読むことは辞められません」
「うん」
「またかって言われても、暗いって言われても、誰に何を言われても辞められないと思うんです」
表紙を開けば広がる世界が好きだから。
周りの音を遮断してわたしだけの世界になる時間がとても落ち着くから。
純粋にその時間が大切だから。
好きだから───────。
「好きなこと、譲れないです」
周りなんて関係ない。
誰に文句を言われようと、夢を反対されようと、好きだから諦めたくない。
譲れない──────。



