キミと世界が青めくとき 【完】






午前中の授業の内容があまり頭に入らないまま昼休みになる。


今日は天気が良いから外で食べようと、お弁当箱を持って渡り廊下のところにあるベンチに座る。


九月初旬。

ここから見えるイチョウの木はまだまだ夏の名残で緑色のまま。

炎天下とまではいかずとも気温は秋とは程遠く、時折吹く風に涼しさを感じながらお弁当箱を開いた、



「─────お、うまそ」



その時、わたしの上に影が出来て後ろからもうすっかり聞きなれた声が聞こえた。



「昼、ご一緒してよろしいですか?」



ベンチの背もたれ部分の縁に両手を置いて上からわたしを囲うように覗くのは、知春先輩だ。

また先輩のくせにわざとふざけた敬語口調で話す先輩とは昨日以来だったから少しだけ恥ずかしい気もしたけれど、先輩がいつもの調子で話掛けてくれたから緊張も一瞬で緩む。



「どうぞ」

「澄の弁当って自分で作ってるの?」



ベンチを周って隣に腰を下ろした先輩はコンビニで売っているパンの袋を開けながら視線をわたしの持つお弁当箱へと向ける。



「いえ、お弁当は母が作ってくれてます」

「お母さんが?」

「はい」

「優しいお母さんだな」



そう言った先輩の言葉を素直に受け取る事が出来たのは、相手が先輩だからだと思う。

先輩の言葉には裏だったり、嘘がない。

疑う余地すらない程にいつも真っ直ぐな言葉をくれる。


何が正解で間違いだとか、良い悪いなんて無いのかもしれないけれど、お母さんはわたしにとって良いお母さんであると思う。

何から何まで面倒みて育ててもらっているくせにわたしがお母さんを評価するみたいになるのは本意ではないけれど、例えお母さんが凛とわたしを比べていたとしても、凛の方が出来の良い子どもだと思っていたとしても、お母さんはお母さんだ。


出来損ないの姉って思われているかもしれなくても、こうして今日も甘い玉子焼きがお弁当に入っているだけで救われた気持ちになる。


毎朝早起きしてお弁当を作ってくれて、わたしの好きなものを入れてくれる。


それだけでお母さんの愛情をちゃんと感じる事が出来る。だから大丈夫だと自分に言い聞かせて。