キミと世界が青めくとき 【完】

警戒心丸出しのわたしは正しいはずなのに、目の前に立つカメラ男はただヘラヘラと緩い笑みを浮かべるだけ。


開けた窓から吹き抜ける風が男の黒髪をサラサラと揺らす。背が高くて優しげな顔立ちの男は黙って突っ立っていればモテると思う。

けれど残念ながら怪しすぎる行動はわたしの心を一ミリだって高鳴らせる事は出来ない。
まあ、彼も彼でわたしにときめかれた所で⋯って感じだろうけど。



「ね、キミ名前は?」

「⋯」

「あ、もしかして警戒してる?なら大丈夫。俺、三年の(たちばな)知春(ちはる) っていうから。怪しい者ではございませんよ?」

「⋯さっきの写真消してください」

「なんで?よく撮れたよ。綺麗だった」

「綺麗って⋯」

「これフィルムカメラだから消すことは出来ないけど、現像した写真今度キミにあげるよ」

「いらないです」

「遠慮すんなって」



遠慮なんかしていない。

本当にいらないし、現像なんかして写真に残さなくていい。

ていうかこの人は本当になんなの?

三年ってことは一つ先輩だけど、ハッキリ言って迷惑だ。

いきなり写真なんか取ってきて、ベラベラ喋ってわたしの世界を壊して。


見るからに人懐っこくて、言ってしまえば凛側の人間に見える彼とは正直これ以上関わりたくないし関わり方もわからない。



「あの、もういいですか?本の続き読みたいんですけど」



だからさっさとここから出て行って欲しいという意味を込めてそう言ったのに、彼から返ってきたのは少し予想外の言葉で。



「どんな本読んでるの?」



その声は、さっきまで喋っていた彼と同じ声のはずなのに、さっきまでよりもずっと落ち着いていて。兄のいないわたしには想像としか言い様がないけれど、その声はまるで兄が妹に語りかける様に優しかった。