「俺、将来は世界中を旅して人や風景や生活を撮る写真家になりたいんだ」
遠くを見つめながら話をする先輩の横顔は凛としていて、だけどどこか寂しそうだった。
「でも、親には反対されてる。ちゃんと大学を出て就職しろって」
「⋯そう、なんですか?」
「うん。写真家として食っていけるかなんてわからないし、俺自身だって不安になる事もあるんだから親としてはもっと心配なんだろうな。安定した職に就いて欲しいって当たり前だと思う。じいちゃんが写真館を営んでいた時とは時代も違うし、俺は写真家として世界を周りたいって思ってるし。安定とは程遠いだろ?」
あんだけ自分の事を話しておいて、シビアな先輩の話の内容にどう言葉をかければいいのかわからなくなる。
こういう時、上手い言葉が見つからない自分に情けなくなる。
だけどきっと先輩は慰めて欲しいわけでも、上手い言葉が欲しいわけでもないんだと思う。
だからわたしはさっき先輩がしてくれたみたいにただ先輩の言葉に耳を傾けた。
「散々言われた。写真なんかで生活出来ないって。ふらふら遊ぶのを止めて勉強しろって。写真なんか何の役にも立たないって」
「⋯」
「親だけじゃなくて担任にも言われたし、友達にも笑われた。写真を撮ってる時は皆笑顔なのに俺が将来写真家になりたいんだって話したら殆どの奴らは物珍しそうに小馬鹿にしたよ」
「⋯っ」
「もちろん、そんな事を言う奴ばっかりじゃなかったよ。純粋に凄いって言ってくれる人もいたし俺の写真が好きだって言ってくれる友達もいる」
「⋯はい」
「─────だけど、やっぱり本気で応援してくれる人はいなかった」
「⋯っ」
「これは俺の受け取り方次第になっちゃうから本当のところどうなのかはわからない。親だって安定した職に就いて欲しい一方で俺の夢を尊重してあげたい気持ちがないわけではないかもしれないし」
「⋯」
「でも、どんな時でも絶対に味方でいてくれて、本気で応援してくれてるのはじいちゃんだけだった」
そう言った先輩の目尻が泣きたそうに下がる。
お爺様の話をしている時の先輩はわたしの前で見せる先輩としての顔ではなくて、ただの孫の顔をしていた。
実際に先輩とお爺様が一緒に居るところは見たことがないけど、きっと先輩はお爺様の前ではこうして不安だったり寂しさだったりを滲ませた表情を見せるのだろ。
そう思ったら、今先輩のこうした表情を見れている事が不思議で堪らなかった。
いつも笑っている先輩だけど、本当は笑顔の裏で泣きたい時もあったのかもしれない。
本当は落ち込むことだって悩むことだって、不安で堪らない時だってあったのかもしれない。
そう考えたら知春先輩のことを抱きしめたいと思ったんだ──────。



