キミと世界が青めくとき 【完】





「⋯⋯⋯⋯わたし、」

「うん?」



夕方の空気に溶けて消えてしまいそうな程小さな声はきちんと先輩の耳に届いたようで、体を斜めにしてわたしと出来るだけ顔を合わせて話を聞こうとしてくれている先輩に、こんなわたしを嫌いにだけはなって欲しくないと願った。



「わたし、凛と双子なんです」

「⋯うん。さっき聞いたよ」

「でも、双子といっても全てが似ているわけじゃないんです。凛と同じ人間なわけではないんです」

「⋯うん」

「もし優劣をつけるとすれば、劣っているのはわたしなんです」



そう言った時、先輩の瞳が悲しそうに揺れた気がした。



「幼い頃から、わたしは凛との差を感じていました。人懐っこくて明るくて友達の多い凛と暗くて人付き合いも苦手で一人でいるわたし。自分の意見を主張出来るのも凛の方でした。わたしが右がいいと言っても凛も右がいいと言えば、結局わたしは左になる。おもちゃもお菓子も全部、わたしは凛の残り物でした」

「⋯」

「たくさんの人に言われてきました。<凛はこうなのに澄はこうなのね>って残念そうに。<凛と澄は全然似てない>って。つまり要らないんです、わたしなんて。凛さえいれば皆それでいいんです。わたしは凛のおまけじゃないのに、周りの人間はわたしを凛の劣化版としか見ていない。凛の付属品としてしか見ていない。凛とわたしは違う人間なんだから性格だって違うのは当たり前なのにそれが悪いことの様に皆でわたしを指さして笑う⋯」

「⋯澄、」

「広大だってそうです」



これは単に負け犬の遠吠えだ。

卑屈なわたしの被害妄想だ。


わかってるけど、長年溜め込んできた感情を止める事は出来なかった。



「広大の事を好きでした。例え広大も凛とわたしを比べていても住む世界が違っていても、広大の言葉に傷つく事があっても、好きだと思ってました。でも、もしも凛と広大が両思いならわたしはそれを応援するって決めてて⋯。凛が相手なら広大を諦める事だって出来た」

「⋯」

「だから先輩の思ってる事はちょっと違うんです。凛と広大は付き合っていないし、わたしは二人を妬んであの場から逃げたわけではない」

「⋯うん」

「ただ、わたしは⋯、」

「⋯」

「わたしは、怖いんです」

「怖い?」

「いつも凛と比べられるから、わたしは人が怖い。苦手なんです。凛も広大も本当はわたしの事を見下してる。だからわたしはいつも一人でいるんですっ⋯。一人なら傷つかないから。一人なら誰にも比べられないから。だからわたしはいつも本を読んで、その世界に入るんです」



純粋に本を読む事が好きだ。

本を読んでいる時間はわたしにとって無くてはならない、酸素の様なものだ。


だけど純粋な気持ちの裏には不純な気持ちもある。

それは一種の現実逃避なのだろう。


現実ではない話の中に入る。


現実に嫌気がさして、フィクションの世界に浸る。


それがわたしの精神安定剤だったのだ。