キミと世界が青めくとき 【完】



それが崩れたのは春から初夏の匂いへと風の香りが変わる頃。



パシャッ、だかカシャッだかわからないけれど、そんなような機械的な音が耳に入る。

いくら本を読んでいる間は周りが無音に聞こえるといっても、それは例えというもので。
その音に意識が向いていないというだけで実際には音は聞こえている。

野球部の声でも吹奏楽部の音色でもない、図書室において非日常的なその音は簡単に物語の世界からわたしの意識を現実へと引き戻した。



「─────なんですか?」


本に栞を挟み、音のした方へと顔を向ける。

不機嫌をそのままにした様な声が出てしまったのは仕方ないと思う。

誰だって知らない人にカメラのレンズをいきなり向けられたら不快になるだろう。



「なんでそんな仏頂面なの?笑って?」

「⋯誰ですか」

「はい撮るよー!1+1は~?」


幼稚園児でもあるまいし、そう言われて「にー!」と素直に笑う高校生がいると思うか。

眉を寄せ怪訝な表情を浮かべるわたしにカメラを構えていた男は小さなため息を吐いてカメラを下ろした。


「普通、写真撮るよって言われたら笑わない?」

「あまり写真は好きじゃないので」

「そうなの?」

「はい。⋯というより一体何なんですか?さっきわたしの事撮りました?」


強めな口調になってしまうのはやはり、致し方ないたろう。

だってこの人、明らかに不審人物だ。

いきなり人を撮るなんて。盗撮じゃないの?