それからノートを棚に戻していつもの席に座る。
まだ真上にある太陽の日差しが眩しくて窓の黄色いカーテンを閉めると、図書室の中はまるで黄昏時の様に薄い黄色の世界になった。
「やっほ」
夏休み中に涼しくなるかなと新たにハマったホラー小説を読んでいると聞こえてきたのはもう随分と聞き慣れてしまった知春先輩の声で。
「こんにちは」と挨拶しようと声のした方に顔を向けた瞬間静かな図書室内に響いたのは、これまた聞き慣れたシャッター音。
「また人のこと撮って⋯」
「まぁまぁ。澄も俺の写真好きでしょ?」
「⋯好きですけど、」
「なら喜んで被写体になってよ」
「それとこれとは話が違、⋯ってまた撮ってる!」
人の話を無視してシャッターを切る先輩は相変わらずニコニコと楽しそうだ。
夏休み中にも何回も会ったし昨日も会ったというのに制服姿の先輩を見るのは一ヶ月以上振りだからかなんだか新鮮で、少しだけドキッとした。
「今日は何読んでるの?」
雪崩るようにして深く頬杖をついて隣に座った先輩に「ホラー小説です」と言えば、わかりやすくその顔を崩した先輩。
「怖くないの?」
「これは作られた小説なので、フィクションです」
「それはそうだけどさぁ。⋯わっ!!!」
何か悪戯を思いついた子どもみたいに崩れた表情からニヤりと口角を上げた先輩が突然大声を出す。
それはわたしを驚かして怖がらせようとしたものだけど、生憎わたしはそういうドッキリにはあまり驚かない性格だ。
「⋯やってる事小学生ですよ、先輩」
「そこは叫んでビックリするところでしょ、後輩」
「ビックリなんてしませんよ。それに大体先輩ってこういう悪戯するタイプだなって予想出来たので」
「つまんねーの」
欲しいリアクションがもらえなかったから口を尖らせて拗ねてみせる先輩は本当に小学生みたいだ。



