新学期の教室はいつにも増して賑やかだ。
どこに行っただとか、焼けただとか。
そんな話題で持ち切りの教室でわたしはいつもの様に自分の席に座り本を読む。
SFファンタジー小説は、すぐにその世界の中に入り込めるから好きだ。
例えばミステリー小説は、段々とその世界の住人になって物語を体験しているような気持ちになっていくけど、SFやファンタジー小説は最初からその世界にどっぷりと浸かる事が出来る。
今日選んだのがSFファンタジーで良かった。
いつも以上にうるさい教室の音もすぐに遮断する事が出来る。
ところで、わたしが夏休み前に書いた感想ノートの返事は来ているだろうか。
彼もさすがに夏休み中の学校には来ていないだろうし、新学期もまだ始まったばかりだから返事はまだ来ていない可能性が高い。
それに約束したわけでもない感想ノート上でのやり取りは、きっと彼の気分次第で簡単に終わらせる事が出来てしまう。
だからこれから先も返事が来る保証なんてどこにもないのに、わたしは早くノートを確認しに行きたくて堪らなかった。
一瞬そんな事を考えてもう一度頭の中を物語の世界へと戻す。
この小説は子育ても一段落し夫と平穏ながら退屈な日々を送っていた主婦がある日自分に時空を移動出来る能力がある事に気付き、その能力で過去に戻り弾けていた青春時代をもう一度をやり直すというストーリ。
だけど過去をやり直すという事は、当然未来も変わってくるという事。
ちょこちょこと未来、つまり元の時代に戻る度に少しずつ変わっている現在に気付いた時には、もう随分と彼女は過去を変えてしまっていて⋯⋯?という、ヒューマンドラマとスリラー要素のあるSFファンタジー小説はどんどんページを捲らせる。
学期初めのHRが始まるまでわたしは夢中になってその本を読んだ。