その後は先輩の「夏休み中に読んで面白かった本大発表~!」の声にわたしは夏休み中に読んだ本の話をした。
やっぱり一番面白かったのは、枕草子。
こういう本があって、こういう文があって、こういう所が現代と通じてて⋯というのをパフェを頬張りながら話すわたしに先輩は飽きる事なく相槌を挟みながら聞いてくれていて。
「枕草子って昔の人が書いたってだけで難しそうな印象あったけど、意外と今と変わんないな」って、笑っていた。
「女の嫌なところが出てる」とも言っていてわたしは思わず確かにって笑ってしまった。
本に興味のないはずの先輩だけど、枕草子以外の事にも先輩は嫌な顔せず耳を傾けてくれていて、わたしはここぞとばかりに夏休み中に読んだ本の話をした。
気が付けば三十分以上は話してしまっていて、退屈な時間を過ごさせてしまったと謝ったわたしに先輩はゆっくりと首を横に振る。
「全然、退屈なんかじゃなかったよ」
「でも先輩、本は読みませんよね⋯?」
「そーそー。俺は漫画専門だから。でもこうして澄が楽しそうなのは見ていて俺も楽しいし、澄の話ならいくらでも聞ける」
「⋯遠慮してませんか?」
「してないよ。何で俺が後輩に遠慮しなくちゃいけないんだよ」
「だからまた本の話聞かせてよ」って微笑む先輩は、先輩という立場を盾にそれ以上わたしに何も言わせないようにしたけれど、興味のない話を聞くのはやはり退屈だろう。
だけどどうしてか先輩の言葉を嘘だとは思えなくて。
「⋯今度先輩も図書館行きますか?」
「澄が連れて行ってくれるなら」
夏休み最後の一日も先輩と過ごせてよかったって思った。
ファミレスを出る際に先輩はわたしと行った思い出の写真をくれた。
イルカのぬいぐるみと同様、それはわたしの宝物となった。