新田が書類をすぐに持ってきた。
 彼は、事情を全て知る人間だ。
 このからくりのすべてを知っているからこそ、頼める。

 借りは作りたくなかったが、雫を守るという気持ちは誰よりも強い。
 雫への優樹菜の返答を新田に告げたら、優樹菜を潰すと朝は公言していた。
 誰よりも強い味方だ。

 雫の男になれなくとも、一番近い男友達になると言われた。
 それくらい彼女に固執している。

 雫も新田に救われたと言っていた。
 俺も彼に雫を救ってもらったということだ。
 男友達というポジションを許すくらいの度量が必要だ。

 優樹菜が先に呼ばれて会議室へ入った。
 ここは、役員フロア。

 人目につかないので、安心だ。
 すると、専務に肩を叩かれた。

 「亮、ちょっといいか?」
 「はい。」

 専務室に案内されて入る。
 社長も座っている。

 「おはようございます。」
 「亮、こちらへ来てかけなさい。」

 叔父は、父の二歳上。専務である息子さんは俺より三歳年上、今年34歳だ。
 彼も独身。降るような縁談の中、最終的にそろそろ決まりそうだと聞いていた。

 「原田優樹菜さんの件だがね。」
 社長が話し出した。

 「まあ、弟から話は聞いている。取引はもちろん、彼女を退社させるのはもったいないと思っているんだ。お前の気持ちもあちらの考えもあるだろうから、一概には言えないがね。」
 思いも寄らない方向から矢が飛んできた。専務が言う。

 「実は、俺の秘書が退職したいと言ってきている。結婚する。相手が遠方に勤務が決まっていて、付いて行きたいそうだ。その秘書の後任に原田さんをどうかと考えているんだが……。英語も堪能だし、役に立ってくれそうだからな。性格的に問題があったりする子なのか?」