「雫、大丈夫か?」
 私の身体を自分の肩に持たれかけさせて、熱を測ろうと手でおでこを触る。
 すぐに、手を離してしかめっ面をする。
 「大分熱あるな。歩けるのか?」

 周りは、一体何事かとこちらを凝視している。
 亮ちゃんは課長に向き直ると、ハッキリと言った。
 「花崎さんは元々知り合いなんです。家も近いので僕が送っていきます。営業先に行く途中なので。」
 皆、あっけにとられている。澄ちゃんは、口に手を当てて、真っ赤になってる。

 「わ、わかりました。ではお願いします。花崎さんお大事にね。」
 課長はそう言うと、荷物を持って私を抱き上げた亮ちゃんを廊下まで見送った。
 エレベーターに乗ると、営業の人たちにも驚かれて、皆一様に凝視している。
 考える余裕もなく、途中で意識がなくなった。

 気がつくと、病院にいた。
 点滴されている。看護婦が入ってきて、「大丈夫ですか?かなり熱高かったですけど、楽になりましたか?」と顔をのぞき込んでくる。しばらくして、亮ちゃんが入ってきた。
 「雫、大丈夫か?」
 「……ありがとう。」
 「心労もあったのかもしれないが、週末も連れ回したし、疲れたんだろう。ごめんな。」
 それは確かにそうだと思う。
 「点滴があと30分で終わるから、そしたら家まで送るよ。少し点滴で熱が下がるだろ。脱水気味だったみたいだ。」
 そうか、それで頭が痛いだけでなくふらふらしたのかな?

 家までタクシーで帰ると、私を下ろした亮ちゃんがインターホンを押す。
 すると、びっくりした母が顔を見せた。
 「雫、どうしたの?」
 横に立つ亮ちゃんに向かって母が頭を下げる。
 「送っていただいたのかしら、ありがとうございます。」

 「おばさん。お久しぶりです。亮です。高野亮です。覚えてますか?」
 びっくりした母は、亮ちゃんをじっと見て破顔した。
 「……やだ、亮ちゃん、こんなに立派になって。ごめんなさい、気づかなくて。あまりに素敵になって。って?どうして雫といるの?」