氷室の副社長昇格が決まる株主総会が、翌週に迫って来ていた。


株主総会は決算から3ヵ月以内に開催することが、法律で定められているから、3月決算が大勢を占める日本企業では株主総会は5~6月に集中するし、4月決算のプライムシステムズの株主総会は7月に実施となる。


なぜ、4月決算なのか?自分の会社のことながら、今までほとんど関心がなかった七瀬は、先日その理由を氷室に尋ねてみた、すると


「親父が人と違うことをして、目立ちたかったかららしい。」


「えっ、本当にそれが理由なんですか?」


思わず聞き返すと


「少なくても俺はそう聞いてる。」


専務は答えて笑っていた。


そんな会話を思い出しながら


(この時期に株主総会があるのはわかってるんだから、それまで城之内さんを引き止めればよかったんだよ・・・。)


詮無いことながら、七瀬はつい愚痴りたくなる。今の専務が、その準備、対策に多くの時間を取られてしまうのは、やむを得ないことで、さきほど指示があった社長へのアポもその一環だろう。


問題はその結果、他の業務が秘書である自分にのしかかって来ることだった。


(専務は、この状況で「メイド」の城之内さんがいても意味はない。「バディ」である七瀬が必要なんだって言うのかもしれないけど・・・。)


このひと月で氷室のやり方、考え方、更に彼が自分に求めていることもだんだん理解できるようになって来てはいるつもりだが、もちろんそれで完璧たりえるわけもないし、自分の能力が急激に上がるわけでもない。


思わずフッとため息を吐いた七瀬だったが、


(しんどいけど、専務に見初められたんだら、やれるだけのことはやらないとな。)


気を取り直すと、先ほどの書類を見直し始めた。


翌日は午後から、実際の会場でリハ-サルが行われた。七瀬たち秘書は、総務部と協力して、当日は事務方を担当する。七瀬は株主たちを出迎える受付を担当する予定になっていた。


一般社員にとって、自社の株主総会など遠い出来事。昨年までは七瀬自身もほとんど関心もなく、自身の仕事に走り回っていたし、まして、総会成功の為に、わざわざ本番の会場を借りて、リハ-サルが行われているなんて、全く知らなかった。