七瀬自身、前任時代、何度かこの会議に呼ばれて出席した経験があるが、この場に取締役秘書が出席していたのを見たことがない。今も専務秘書の自分以外に、顔を見せている秘書はひとりもいない。


やはり場違いでまずいのではと、七瀬が専務を見ると


「俺が出席を指示したんだ。何か異議があるのか?若林主任。」


氷室が厳しい視線で、若林を一瞥する。


「いえ。」


専務のひと睨みを受けて、若林は首をすくめて、大人しく席に着き、氷室社長からも副社長たちからも言葉はなく


「それでは、営業会議を開始します。」


という司会の声が部屋に響いた。プライムシステムズの営業部はサーバー、ネットワーク機器、PCやスマートフォン端末などのいわゆるハードウェアの販売を担当する一課、顧客の方針と課題を確認し、その解決策として情報システムや情報サービスといったソフトウェアを提案、提供する七瀬の古巣である二課、そしてWebサイトやコンテンツの制作、Webを利用したマーケティングなどを請け負う三課から構成されている。


そして、この席ではまず営業部長から先週の営業成績の総括的報告、そして各課長毎の状況報告が続く。一課長からの報告の際は、営業本部長たる会田(あいだ)常務を差し置いて、氷室専務が厳しい指摘をしていたが、二課長の報告になると俄然、常務が張り切り出す。


(たまにこの会議に出席してた時も思っていたけど、専務はウチ・・・じゃなくて二課の方にあんまり興味がないというか、得意としてない。常務は逆で、そして2人はかなりお互いを意識している。)


そんなことを感じながら、七瀬はこの席に連なっていた。


そして、各課長の報告が終了すると。こんどはその下の主任クラスが、営業本部からの指名を受け、週に数人が出席して、現状の取り組み等を報告をすることになっていた。


一課の主任に続いて、報告の場に立ったのは若林。


「若林です。現在私のチ-ムで取り組んでいますのが・・・。」


と説明し出したのは、他でもない、七瀬がやり残し、彼に引き継いだ内容であった。確かに主任交代からまだ1週間で時間がなかったことは、頭では理解しているが、さも自分の考えであるかのように、得意げな表情で語られると


(少しは自分の色も出したらどうなの?)


という思いがもたげて来て、正直面白くなかった。