主が不在の専務室で、城之内から七瀬への引継ぎ、教育がスタ-トした。挙式をひと月後に控えている城之内は、今週一杯で事実上、(株)プライムシステムズを退職し、有休消化をしながら、式、更には新婚生活の準備に入ることになっていた。


「秘書の仕事は、ひとことで言えば、お仕えする上司、私たちで言えば、専務の業務の総合的なサポートを行うことです。」


「はい。」


「具体的には、スケジュール管理や調整、来客応対、会議や商談・イベントなどの準備、社内外の人とのやり取り、書類作成など、その業務は多岐に渡ります。ですから、まず大切なのは専務の業務内容やルーティン、嗜好などを十分に理解した上で、専務が働きやすい環境を整え、スピーディーで的確なサポートを行えるように努めることです。」


こうして、先輩秘書の淀みない話を聞きながら、業務を実践しているうちに、あっという間に午前中は過ぎて行き、昼食休憩の時間になった。連れ立って、地下にある社員食堂に降り、向かい合って昼食を摂る。


「藤堂さんは、専務にお会いしたことある?」


城之内に尋ねられ


「営業会議で何度か、お見かけしましたが、別に一対一でお話させていただいたわけではありませんし、実質初対面みたいなものです。」


七瀬は答える。


「そうなんだ。。でも今回の人事は、専務のお声掛かりだって、聞いたけど?」


「はい。私もそうお聞きしましたけど、理由が全然わからなくて・・・。」


「そっか。それはともかく、専務は当たり前だけど、仕事には厳しい方よ。でも私はたまたま、婚約者が専務と入社同期で、仲良くさせていただいてるから、その流れで必要以上に構えて接したりはしなかった。」


「そうなんですか?」


「普段は気さくで優しいし、齢も私たちとそんなに変わらないから、その方がお気に召すみたい。藤堂さんも覚えておいて。」


「はい、わかりました。」


と頷いてはみたが、専務と城之内は1歳違いだが、自分は4歳下だ。だから、同じようなわけには・・・というのが、率直な気持ちだった。


そんなことを話しながら、しかし2人はゆっくりと昼食と雑談を楽しんでいる暇は、今日のところはなかった。専務の帰国時間が迫って来ており、迎えに空港へ向かわなければならないからだ。


食事を終えた2人は、一旦専務室に戻ると、必要なものを手に取ると、慌ただしく、公用車に乗り込んだ。