駐車場から砂浜に降りて、2人は歩く。夏本番には、まだ少し早いが、心地よい潮風が2人の身体を通り抜け、視線の先では、太陽が地平線に没し始めている。


「覚えてる?」


その様子を並んで眺めながら、七瀬は口を開いた。


「小さい頃、この海岸にはよくお互いの家族で来たよね。」


「そうだな、ここと隣町にあるテーマパ-クは、両家で出掛ける時の定番だったからな。」


と答えた大和は


「なんでこの海岸に、連れて来られてたか、知ってるか?」


逆に問い返して来る。


「えっ、なんか特別な理由があったの?」


「ここで、ウチの親父はオフクロにプロポ-ズをした。両親にとっては思い出の場所なんだ。そして・・・俺も弥生にここでプロポ-ズしたんだ。両親に倣って。」


という大和の言葉に、七瀬は思わず息を呑む。そして


「ご、ごめん。私、なんにも知らないで・・・。」


慌てて謝るが


「いや。別に七瀬に悪気があったわけじゃないんだから。」


穏やかに首を振る大和。


「でも・・・。」


「それに、弥生とは10年近く付き合って来たんだ。ここらへんのそれっぽい場所で、彼女との思い出に繋がらない場所なんて、はっきり言って、ありはしないよ。」


「・・・。」


「プロポ-ズした時、弥生は涙を流して喜んでくれてさ。俺の手を握って、『私はこの手を絶対離さない。ずっとずっと一緒にいようね』って、言ってくれたんだ。まるで、昨日のことのようだよ。それが急に『このまま一緒にいて、幸せになれる未来が見えなくなっちゃったの。だからもう一緒にはいられない。』って突き放されて。それっきり、まともに話も出来なくなってしまって・・・。正直悪い夢でも見てるようだよ。」


そう言って、大和は1つため息を吐いた。その横顔を見ながら


「佐倉さんとは、もう全然連絡とれないの?」


七瀬は尋ねる。


「ああ。電話やLINEはもちろん、直接会いに行っても、絶対に顔を見せてもくれない。最近じゃ、俺が訪ねて来るのが、よほど鬱陶しいのか、週末は家にもほとんどいないみたいなんだ。」


「そう、なんだ・・・。」


聞けば聞く程、それは自分が知っている弥生の言動とは、七瀬には思えなかった。