「どういうことなんだよ?俺、なにか弥生にした?」


ようやく言葉を絞り出して尋ねる大和に


「酷いこと言ってるのは、わかってる。17歳の時からお付き合いして来て、今こんな言葉をあなたに浴びせる自分は最低だと思う。でも・・・もう自分でもどうしようもないの。本当にごめんなさい!」


直接答えずにそう言って、深々と下げた弥生は


「これはお返しします。今までありがとう、さようなら。」


大和から贈られたエンゲ-ジリングの箱をそっとテーブルに置くと、もう1度頭を下げ、そのまま席を立った。


「弥生!」


我に返った大和の呼び掛けに、振り向きもしない弥生。慌てて、後を追うが、まるで待たせていたかのように入口の前に停まっていたタクシ-に飛び乗り、走り去る彼女を、大和は茫然と見送るしかなかった。


このあと、いくら電話を掛けても、LINEを送っても、弥生は一切答えることはなかった。やむを得ず、彼女の自宅に連絡すると、父親が出た。状況を訴える大和に、丁寧に詫びを言い


「明日必ずお伺いしますから。」


そう約束した彼の言葉に、大和は取り敢えず引いた。今はそうするしかなかった。


だが翌日、尋ねて来たのは両親のみで、娘を説得したが、頑として言うことを聞かない。せめてこちらに伺って、もう1度お詫びを申し上げろと言っても、部屋に閉じこもったままでどうにもならない。


あんな無責任な娘に育てた覚えはないのだが、お恥ずかしい限りだと、憔悴を隠さずに詫びる両親に、さすがにこれ以上、厳しいことも言えず


「マリッジブル-という言葉もありますから、とりあえず少し冷却期間を置きましょう。」


という結論になって、話は1回終わったのだという・・・。


『こんなひでぇ話があるかよ。俺だったら、そんな女、こっちから願い下げだって言って、慰謝料1億くらい、吹っ掛けてやるよ!』


電話の向こうで憤る弟の声を、七瀬は黙って聞いていた。一連の話を聞いて、自分が知っている、自分に絶対に敵わないと大和を諦めさせた恋敵である弥生のその言動に、あまりにも違和感があり過ぎたからだ。


「とにかく、1回冷却期間を置くって決まったんなら、それを見守るしかないでしょ。私たちは所詮、部外者なんだし。」


宥めるように言って、七瀬は電話を切る。どちらにしても自分が首を突っ込むことでも、突っ込みたいとも思えなかった。