「だから私は立候補したの。もう遠慮する必要なんかない、私が大和くんの彼女になって、大和くんを包んであげるんだって。ずっと側にいて、彼を守ってあげようって。」


じっと視線を逸らすことなく、弥生は話し続ける。その真っすぐな視線に圧されるかのように、七瀬はいつの間にか俯いてしまう。


「そして、私は今、まぎれもなく大和くんの彼女になった。確かに、今まで大和くんと過ごして来た時間の長さは、あなたには敵わない。でも私は藤堂さんのように、自分から彼を手離すような真似は絶対にしない。誰にも大和くんを渡さない。これから私が、彼との時間を紡いでいくの。だから絶対にその邪魔はしないで。それじゃ。」


そう言い切って、立ち去ろうとする弥生を


「待って!」


懸命に呼び止めた七瀬は


「あの時、私は大和に彼を見てる、好きになる女子なんて私だけ、それを教えたかっただけだったの。こんなことになるなんて、夢にも思ってなかったんだよ。反省してる、だから、お願い。大和を返して、この通りだから。」


必死に頼み込み、頭を下げる。しかし、そんな七瀬を冷ややかに見て


「藤堂さんって傲慢なんだね。」


弥生は呆れたような口調で言う。その言葉を愕然として聞く七瀬に


「だいたい、私に大和くんを返せって言うのは、筋違いだよ。」


弥生は静かに続ける。


「えっ?」


「どうしても大和くんを取り戻したいのなら、大和くんに直接、その気持ちをぶつけるべきなんじゃない?」


「佐倉さん・・・。」


「それを止める権利は、私にはないんだから。それを藤堂さんがしないのは、私に勝つ自信がないからでしょ?」


そう言って、フッと微笑んだ弥生は、言葉を失う七瀬に背を向け、今度こそ屋上を去って行った。


そして、ひとり残された七瀬。


(なによ、言いたいこと言って・・・。)


悔しさがこみ上げて来る。でも何も言い返すことが出来なかった、それが現実だった。


(私は、なんてバカなことをしてしまったの・・・。)


七瀬は後悔に沈んだ。


そして・・・当初は不釣り合いだの、すぐにダメになるに違いない等々、いろいろ言われていた大和と弥生が、やがて周囲から「ナイスカップル」と認められるようになるのに、大して時間は必要なかった。


「私も彼氏が出来たら、あの2人みたいになりたいな。」


「そうだね。」


クラスメイトたちがそんなことを話してるのが聞こえて来ると、七瀬は耳を塞ぎたくなる。でも耳を塞いでも、目を背けても、現実は何も変わることはなかった。