「実はビーエイトさんとウチの合併話が持ち上がっている。」


3ヵ月前、突然実家に呼び寄せられ、父からそう告げられた時は、驚いた。正直、圭吾の頭の中には、全くなかったことだったからだ。更に


「発案者は、向こうの副社長だそうだ。」


と続けた圭介の言葉に、衝撃は更に大きくなった。


(貴島はなんで、そんなことを言い出したんだ・・・?)


懸命に心を落ち着けて、その意図を探った圭吾はやがて


「悪い話じゃないと思います。簡単じゃないだろうけど、うまく行けば、両社にとってメリットが大きいと思います。」


ビジネスの話だけに、敬語で父に言った。


「それはお前の本音か?」


「えっ?」


「彼女の目的が、純粋なビジネスとしてだけじゃないとしても、そう思うか?」


意味深な表情で問う父を、少し見つめた圭吾は、やがてその言わんとしてることに気付いた。


「父さん・・・。」


思わずそう呼び掛けた圭吾に


「俺はこの話がビジネスとして、検討に値すると思って、今お前に話した。貴島社長もそう判断したから、こちらに提案された。そして発案者の貴島副社長も、もちろんだ。だが、彼女の本当の狙いはビジネスじゃない、お前だ。」


圭介ははっきり告げた。言葉を失う息子に


「圭吾、愛奈さんは本気だぞ。」


圭介はダメを押すように言った。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

この日は社長代理としての活動だった為、公用車の後部座席に身を沈めながら、圭吾は物思いに耽っていた。


(関係ないどころの騒ぎじゃない。この話の全ての始まりは、愛奈の俺への想いからだったんだ・・・。)


愛奈が自分に寄せる想いに気が付かなかったわけではない。そして、それが嫌だとも思ってはいなかった。だが、同じ企業創業者の子供で後継者という立場である以上、結ばれることは現実的には難しい。その判断のもと、圭吾は意識的に愛奈との距離を取って来た。


しかし、その彼の思いに対して、愛奈は自分たちの会社の合併という強烈なカードを切って来た。


「これなら、なんの支障もなく、私たちはパートナ-になれ、そしてバディになれるでしょ。」


そんな彼女のメッセ-ジに息を呑んだ。