会議は尚も続き


「昼食を入れた方がいいのかしら。」


と課長が心配し始める。午後一の営業会議も重要だが、内部会議だからなんとか時間の調整はつく。だが、その後のスケジュ-ルで外部とのアポが入ってる取締役がいるので、そこへの影響が心配なのだ。社長秘書が氷室社長の指示を仰ごうと連絡を取ろうとした時


「今、終わりました。」


様子を見に行っていた秘書が帰って来て告げた。それを聞いた課長はホッとした表情を浮かべ、秘書たちは主を迎えるべく、それぞれのオフィスへ急ぐ。七瀬も慌てて、オフィスに入ると、タッチの差で圭吾も帰って来た。


「お帰りなさい。」


出迎えた七瀬に


「すまん、営業会議は予定通りだそうだ。至急、食堂から昼食を取り寄せてくれないか。」


圭吾は指示を出す。


「かしこまりました。」


恐らく各取締役から同じ指示が出ているはずだ。だとしたら、食堂に電話するより、直接取りに行った方が早い。そう判断した七瀬はオフィスを飛び出して行く。そしてその判断は正解で、お蔭で圭吾は取締役たちの中で一番に昼食にありつくことが出来た。


「社長を出し抜いてしまったのは恐縮だが、これは秘書の機転と能力の差だ。勘弁してもらうしかないな。ありがとう。」


笑顔でそう言って、昼食をパクつき始めた圭吾に、ニコリと微笑んだ七瀬は、一旦席を外すと、すぐにお茶を煎れて戻って来る。そして、それを圭吾の前に置くと


「ここまで長引いたのは、やはり例の件ですか?」


と尋ねた。


「ああ。親父も大したもんだ、これだけの重要案件を、事前に俺以外の誰にも根回しもせず、今日の議題にしやがった。」


「やっぱり、そうなんですか?課長や社長秘書も何も聞かされてなかったみたいだったんで・・・。」


「俺自身も絶対に他言無用と言い渡されていたんだが、まさか当の本人まで、それを守っているとは驚いた。」


そう言って圭吾は苦笑いを浮かべる。


「さすがはワンマン社長だが、しかし今度ばかりは、経営そのものに関わることだ。いつもみたいに鶴の一声で決定というわけにはいかない。会田専務を筆頭に慎重論が噴出して、紛糾したよ。」


「そうですか・・・。」