「大和が謝る必要なんかない。私がちゃんと素直になれば、あんなバカなことをしないで、あなたにキチンと自分の想いを伝えていればよかっただけなんだよ。本当にごめんなさい。」


慌てたようにそう言う七瀬に


「俺にとって、七瀬が特別な存在だったことは間違いない、もちろん今でもそうだよ。でもそれは・・・やっぱり弥生とは違った意味なんだ。」


大和は言う。


「いよいよ息を引き取る寸前、弥生は懸命に俺の手を握り、そしてこう言ったんだ。『今までありがとう。あなたと出会えて、あなたに愛されて、私はとっても幸せでした。だから、あなたはこれからは、私の分まで藤堂さんとお幸せに。』って・・・。」


「・・・。」


「俺は黙って頷いた。それを見た彼女は安心したように目を閉じて・・・二度とその目を開いてくれることはなかった。」


「・・・。」


「次の瞬間、俺は彼女の亡骸にすがりついて、こう言っていた。『僕が愛してるのは、弥生、君だけだ。だから今度会えるのは、何十年先かわからないけど、待っててくれ。』って。」


そう言った大和の目からは、その時と同じように涙が溢れ出して来た。


「最期の彼女の言葉。それが彼女の本心だというのはわかってる。その願いは尊いと思っている。七瀬の気持ちだって、正直嬉しいと思ってるよ。でも・・・申し訳ないけど、今の俺にはやっぱりお前のことを、弥生以外の女性のことを考えることは出来ないんだ。許してくれ。」


その涙を拭おうともせず、大和は七瀬に頭を深々と下げた。


「頭を上げて、大和。」


そんな大和に、静かに七瀬は言う。その声に応えて自分を見た幼なじみに


「あなたのその気持ちは当然だと思う。悔しいけど、私じゃ、佐倉さんの代わりにはならないしなれない。そんなことは百も承知だよ。だけど、それでも私はあなたが好き。いつまでかかるかわからないのもわかってるけど、でもいつか、あなたが私の気持ちに向き合ってもいいって思える日が来るまで、待たせてもらってもいい?それすら、大和にとっては迷惑、かな?」


伺うような視線を向けて、七瀬は尋ねる。だが


「正直、その七瀬の気持ちは、俺には重すぎて受け止められない。だから、はっきり言って・・・迷惑だ。」


大和ははっきりそう言い切った。


「そっか・・・わかった。」


力なく七瀬は言う、言うしかなかった。


「ごめん・・・。」


もう1度、そう言って頭を下げた大和に、黙って首を振った七瀬の瞳にも涙が光っていた。