「そっか、そうなんだ。そうかも、しれないな・・・。」


呟くように言う愛奈。


「そうです。だから・・・おふたりこそ、お互いのバディそしてパートナ-にふさわしいんじゃないんでしょうか?」


「えっ?」


唐突にそんなことを言われて、驚いたように七瀬の顔を見る愛奈に


「実はご報告があります。」


七瀬は畳み掛けるように続ける。


「私、このプロジェクトが完全に軌道に乗った段階で、氷室副社長に辞表を出すつもりです。」


「藤堂さん・・・。」


一瞬見つめ合ったふたり。そして


「身を引くって言うこと?」


静かに愛奈は尋ねる。


「そんな偉そうなことを言うつもりはありません。私には、ずっと好きな、心に決めた人がいます。正直言って、副社長に好きだとおっしゃっていただいて、心が揺れ動いたのは確かです。でもやっぱり私は、その人への思いを断ち切ることは出来ないんです。副社長の思いにお応えできない以上、私はあの方のお側にはいられません。仕事とプライべ-トは別とおっしゃるかもしれませんが、私にはそんな器用なことは出来ません。ですから・・・。」


「先週、妹にいろいろ言われたんでしょ?」


勢い込んで話す七瀬を押しとどめるように、愛奈は口を挟む。


「ごめんなさいね。」


「いえ、そんな・・・。」


「私、あなたのことが嫌いよ。」


突然の言葉に、驚いて七瀬は愛奈を見る。


「自分の好きな人の側に突然現れ、好きな人の心を弄ぶような態度を取って、自分の恋心の邪魔をされて・・・。そんなあなたが目障りじゃないわけないでしょ?好きになれるわけないでしょ?嫉妬しないわけないでしょ?だから、消えてくれるって言うんなら大歓迎。明日にでもそうしてもらいたいくらい。」


「・・・。」


「それが貴島愛奈というひとりの女の本音。でも、ビーエイト副社長貴島愛奈としては、そう単純な話じゃないんだな。」


「貴島さん・・・。」


「私はあなたが来社する度に、まるで自分の部下のように呼びつけて、現状報告を受けて、問題点を聴取して、その対応策を協議して・・・残念ながらこのプロジェクトに携わっているメンバ-の中で、あなたほど歯ごたえのある話を私に返してくれる人物はいないの。だから、私にはあなたが必要なのよ、それは先輩と同じ。」


「それは嬉しいお言葉ですが、私はSEでもないですし、正直過大評価です・・・。」


七瀬は困惑の表情を浮かべる。